コラム:鍼灸の「診療ガイドライン」は作成可能か?考える。
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一般の方にはちょっとなじみがない言葉が
並んでいるかもしれませんが
本日は上記タイトルのようなことを
考えてまとめてみます。
(1)診療ガイドラインとは?
では以下のように定義されています。
(以下)
診療上の重要度の高い医療行為について、
エビデンスのシステマティックレビューと
その総体評価、益と害のバランスなどを考量して、
患者と医療者の意思決定を支援するために
最適と考えられる推奨を提示する文書。
(福井次矢・山口直人監修
『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』
医学書院.2014.3頁)
このように、診療ガイドラインは、
科学的根拠に基づき、系統的な手法により
作成された推奨を含む文章です。
患者と医療者を支援する目的で作成されており、
臨床現場における意思決定の際に、
判断材料の一つとして利用することがあります。
診療ガイドラインは、
医療者の経験を否定するものではありません。
またガイドラインに示されるのは
一般的な診療方法であるため、
必ずしも個々の患者の状況に
当てはまるとは限りません。
使用にあたっては、
上記の点を十分に注意してください。
臨床現場においての最終的な判断は、
患者と主治医が協働して行わなければならないことを
ご理解ください。
(以上、MindsのHPより)
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Mindsでは診療ガイドラインの
上記リンク、
診療ガイドライン作成マニュアルを
読んでいると大変勉強になります。
診療ガイドラインとは
エビデンスに基づいた医療、
すなわちEBMであることがよくわかります。
誤解を恐れずにあえて
すごくざっくばらんな言い方をすれば
EBM的な考え方は確率論であり
一般論として正しい
という最大公約数的な特徴があります。
(2)鍼灸の特徴は「個別医療」
実は鍼灸のガイドラインというものは
現状存在しません。
なぜでしょうか?おそらくですが
作成が困難だからではないでしょうか?
鍼灸や漢方は上記のような
確率論だけでは表せないようなことも
得意としています。
東方医学会の理事であり医師の
上馬場先生などは鍼灸の良さは
「個別性にある」
というお話をよくされています。
どちらが正しい・間違っている
ではなく得意不得意の問題です。
鍼灸だけでなく
漢方にもガイドラインはないようですが
同じように個別医療であるという特性上、
ガイドライン化が難しいから
かもしれません。
EBMでよく目にするRCTとは
のことですが
これも鍼灸や漢方の特性を考慮すると
「介入に関する記載が不十分なものが多い」
上記リンクには、
葛根湯の例がかかれていますが
どのような葛根湯だったのか?考えると
生薬なのか?エキス製剤なのか?
という問題もあります。
鍼灸では刺す鍼と擦るだけの鍼(シャム鍼)が
比較されますがはたしてその比較は十分なのか?
という問題も検討すべきと考えます。
西洋医学的な単一成分の薬のテストとは
少し状況が違うのです。
(3)それでもガイドラインは作成可能ではないか?
・・・ただそれでも鍼灸の研究も
漢方の研究も世界中で日々増え続けています。
そうしたデータは有効活用したほうがいいと
考えますし
ガイドラインの作成は可能ではないか?
とも思います。
Mindsが診療ガイドラインの
これを読んでいると準備にも時間はかかるし
ボリュームも大きくなるはずです。
似たような業界ですと
理学療法協会の診療ガイドラインは
簡易阪である「ダイジェスト版」だけでも
人や予算もかけなくてはできないでしょう。
また上記(2)で上げたような
鍼灸の特徴から論文の選定や精査にも
時間がかかるのではないかと思われます。
必然的に個人では難しいのではないかと思いますし
学会や企業などの力を結集させなくては
作成は難しいのではないかと思います。
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ただもしも、
「鍼灸の診療ガイドライン」
が作れたら素晴らしいことになると思います。
病院から鍼灸院への紹介も増えるでしょうし
国や自治体、医療政策に対しても
アピールできることになると思います。
鍼灸の業界が一丸となり取り組む価値は
十分にあるのではないでしょうか?
実現するかどうかはまた別ですが・・・。