カテゴリー: お知らせ・ブログ・思うこと

    田無北口鍼灸院の連絡事項やお休みのお知らせニュースのまとめ制度について思うこと・・・などまとめていきます。問い合わせがある場合は院に直接連絡くださいますようお願いいたします。

論考まとめ:気と水のコスモロジー~中国古代の身体観と医学観

年末年始にかけて学習した堀池信夫先生の論考が素晴らしかったのでここにまとめようと思います。道教の生命観と身体観という本からの引用で「気と水のコスモロジー~中国古代の身体観と医学観」というタイトルです。以下、章ごとに要約をまとめます。

1,医療と文化的多様性

医療とは人類が病気というものに出会って以来の集積としての文化行動である。大きく分け3つの形があり狩猟採集生活の中で誰かが薬となるものを偶然に発見した、呪術的感性のもとに何らかのアナロジー的発想からの療法を発見した、頭痛の時に頭を押さえるような反射的あるいは習慣的行動の中から療法を発見した、に分けられる。

医療行為は、その社会の文化的経験の集積で地域的特色も明確化してゆくことになる。そのプロセスではマクロ的にはその社会の持つ世界観、ミクロ的には身体観というものが多かれ少なかれ影響していたと思われる。だがその場合にそうした世界観や身体観が一つの社会につき一つしかなかったとみるのはおそらく幻想である。実際には相当の多様性があったのではないかと思われる。中国の世界観や身体観、ひいては医学観もそうした多様性を内包しているものと思われる。

2,気の身体観

中国の伝統的世界観ではこの世界はすべて気によって形成されるという考えである。人間も同様に気で形成される。精神も身体も気によって形成されたと考えられていた。そのため心身二元論では考えないのである。これを証するものとしてよく荘子・知北遊(ちほくゆう・道のあり方が説かれている古典)が引用される。

生は死の徒なり。生は死の始なり。だれかその紀を知らん。人の生は気の聚りなり。聚まれば則ち生と為り、散ずれば則ち死となる。若し死と生と徒なれば、吾れ又何かを患えんや。故に万物は一なり。

この文章は万物は一体で死生は一如であるということを言っている。そして気の聚である高密度状態が生、発散し希薄になれば死になり人間の身体は気において成り立つという考えが示されている。

そして後漢書の趙咨伝(ちょうしでん)には気は身体の構成要素であるというより身体の構成要素をげんにある身体という形態に統括している機能(あるいは機能を持つ何者か)として書かれている。つまり気以外が身体で気がそれを統括しているということになる。

夫れ含気の倫、生あるものは必ず終わる。蓋し天地の常期、自然の至数なり。・・・夫れ亡するとは、元気の体を去るなり。貞魂遊散するなり。素に反り、始に復り、無端に帰るなり。(身体は)すでに消失し還りて糞土に合す。

2025年3/1~3/25当ビルエレベーター停止、2月お休み日程のお知らせ

2025年3/1~3/25の8:30~19:00までの間、工事のためエレベーターが停止となります。(階段は使えます。)エレベーター停止期間中は以下のように対応します。

・付き添いが必要な方は、ご連絡くださればお迎えに上がります。

・ビル入り口、弊所立て看板のところ(↑写真)に杖を設置して使えるようにします。階段で必要な方は使ってください。使用後は元の場所にお戻し下さい。

・車椅子等で来所される方は夜間に対応させていただきます。

以上ご迷惑をおかけしますがよろしくお願い申し上げます。

 

2025年2月は11日(火曜日祝日)、23日(日曜日)、24日(月曜祝日)お休みいただきます。

第42回東方医学会「東方医学の精神文化と身体観」の感想 ~前向きな感情が芽生えた大会

去る2024年11月24日に行われた東方医学会学術大会に参加しました。私自身も学術発表の場をいただき発表しましたが他の先生方の発表も大変すばらしく非常に学びのある時間でした。大会は漢方医や鍼灸師だけでなく宗教家、日本舞踊の先生も参加され通常とは少し違った形でした。慈愛に満ちた素晴らしい学術大会であったと思います。以下私の感想を述べます。

近代化と伝統医学の問題

会頭講演でも「近代化に関する混乱とその問題」が挙げられていました。日本には明治維新の前まではなかった「概念」が入ってきたことで混乱が起きた事例が沢山あります。それが今も続いているものもあります。例えば、「個人」や「社会」という言葉は、明治時代以前は日本にありませんでした。(参考1)個人や社会という言葉を訳し、広めたのは福沢諭吉であると言われます。(諸説あり)これらの概念は江戸時代以前にはなかった、もしあったとしても現代人の我々が考えているものと違っていた可能性が高いことを意味します。日本人が人権や法の理解に弱いのはこれらの新しい概念を咀嚼できていないからではないかと指摘する法学者もいます。(参考2)

宗教に関しても同様です。私たちは宗教というとキリスト教や仏教等を思い浮かべますがその概念も当時の僧侶、島地黙雷が近代化に合わせて整理し生まれたものです。(参考3)医学分野でも1874年に制定された医制により、西洋医学に基づく医療体制が定着しました。この反動のような形で「東洋医学」という言葉が生まれたのですがそもそも言葉の定義や立ち位置が不明な上、西洋医学の反動という皮肉な宿命を背負っているのです。(参考4)この事が、現在漢方医学や鍼灸医学を学ぶ私たちの置かれている状況をややこしくしているといっても過言ではないでしょう。そもそも東洋医学という言葉は意味不明で、中国の人には意味が通じません。(参考5)ここに一つの矛盾があります。

それは東洋的な思想なのか?という疑問

また私は鍼灸を学んでいて「それは本当に東洋的な思想なのか?」と疑問に思うことが多々ありました。思想・哲学と現実的な医学の実践は乖離してしまうこともあるので仕方ない面もありますし、だからダメだと言いたいわけではなく腑に落ちないことが多かったのです。

例えば東洋哲学や禅の思想の根幹でもある「一如」や「不二」という概念は決して分けられるものではないことを意味します。(参考6)陰陽も完全に分かれることはありませんし太極図でもそれが表現されています。陰が極まれば陽になるだけです。しかしいまだに「西洋医学で解決できなかったものが東洋医学で解決できるのではないか?」、と考える方は一定数います。そのような二元論的発想や方法論に終始すること自体が東洋的でないと考えています。また中医学はさらに東洋的な発想ではない部分があると感じます。例えば中医学では弁証に基づいて患者の症状を把握し、陰陽、虚実、気血水、寒熱、表裏、五臓、六病位などの基本概念を適用して「証」を確定します。弁証論治は明確な答えを導きやすい強みがありガイドラインのようなもの、として考えればとても優れています。しかしこのシステマチックな思考法自体が東洋的な発想ではないように思うのです。学校教育で鍼灸師を養成し東洋医学概論を教えることも同様です。漢方製剤処方することも同様でしょう。効率的で優れた面が沢山ありますが、このような例は枚挙に暇がありません。

その上で、前向きな目標がもてた事

伝統医学をめぐる問題や矛盾はありますが、私はそれらを否定したいとは全く思いません。先人たちが築き上げてきた理論体系があるおかげで今、私たちは伝統医学に関わることが出来ています。そのことへ感謝する気持ちも強くなりました。もしもこのまま、伝統医学をめぐる状況が変わらず専門家や専門性が没落したとしても、社会から必要とされる鍼灸師でありたいと強く思うようになりました。もっと中医学を学んでみたい気持ちも強くなりました。今大会は自分にそのような前向きな感情が芽生えるきっかけになりました。

一方で矛盾や問題点は自覚すべきでしょう。それらを踏まえ現代において伝統医学に関わる我々は何をなすべきでしょうか?過去には鍼灸や漢方の科学化や共通言語化なども叫ばれましたが、私は「東洋医学という言葉をはじめとする、伝統医学の意味や定義の整理」が急務であると感じています。それらがないことには自分たちの持つ世界観や価値観をどのように共有していけばよいかも迷うことが多くなってしいます。中国や韓国のように国家主導で、それらが決まることは本邦においては難しいとも感じていますが個人、民間レベルでもできる事はたくさんあります。

そして多様化する価値観を持つ方が多い現代社会で、伝統医学の知見や手法を生かすには思想や手法を超えた超自我によるコミュニケーション・ケアの実践が必要ではないか?(参考7)と感じています。押しつけでなく、どのような世界観や価値観の人にも対応できるような「一如」であり「超自我」的な姿勢が治療者側に求められていると思います。その際に東洋的な思想や哲学は大いに役立つでしょう。以上のように様々なことを考えさせられ、自分の成長につながる学術大会でした。今後も日々の臨床に学習に励んでいきたいと感じます。日本東方医学会関係者のありがとうございました。心より感謝申し上げます。

参考

1,安部謹也「日本社会で生きるということ」朝日新聞社

2,川島武宜「日本人の法意識」岩波書店

3,山口輝臣 島地黙雷 「「政教分離」をもたらした僧侶」山川出版社

4,真柳誠「西洋医学と東洋医学」『しにか』8巻11号12-19、 83-85頁、1997年11月

5,東邦大学医療センター 大森病院 東洋医学科 三浦於菟 漢方医学と東洋医学はどう違うの -東洋医学の歴史-

6,鈴木大拙「東洋的な見方」角川ソフィア文庫

7,小西達也 「異宗教間ケア」の原理と方法論-「一/多」の人間観の観点から-

脳血管障害(脳梗塞・脳出血等)の後遺症と鍼灸治療

脳血管障害の後遺症には鍼灸治療が有効です。それらについてまとめていきます。

脳血管障害とは?

脳血管障害とは、脳の血管に関連する疾患全般を指す言葉であり、脳卒中(脳梗塞や脳出血など)もその一部です。これらの障害は、脳に酸素や栄養が届かなくなり、脳機能に大きな影響を与えるため、早期の予防と対応が極めて重要です。脳血管障害にはいくつかの主要なタイプがあります。それぞれの障害は、脳にどのように影響を与えるかによって異なります。

脳梗塞(のうこうそく):脳梗塞は、脳の血管が詰まり、血流が途絶えてしまう状態です。このため、その部分の脳組織に酸素や栄養が届かなくなり、脳細胞が死んでしまいます。主な原因は、動脈硬化や血栓(血の塊)が血管を塞ぐことが多いです。

脳出血(のうしゅっけつ):脳出血は、脳内の血管が破れて出血する状態です。出血によって脳組織が圧迫され、脳機能に障害をきたします。主な原因は高血圧で、特に脳の細い血管が破れることが多いです。糖尿病などの病気も大きなリスクになります。

くも膜下出血(くもまくかしゅっけつ):くも膜下出血は、脳の表面を覆っている「くも膜」という膜の下に出血が起こる状態です。通常、脳動脈瘤(血管の一部が膨らむ)が破裂することが原因です。このタイプの出血は、突然の激しい頭痛を伴い、重篤な結果を引き起こすことが多いです。

一過性脳虚血発作(TIA: Transient Ischemic Attack):TIAは、一時的に脳の血流が低下し、短時間だけ脳卒中に似た症状が現れる状態です。通常、症状は24時間以内に回復しますが、脳卒中の前兆として見られることが多く、早期の対応が重要です。

脳血管障害の症状

脳血管障害の症状は、障害される脳の部位や範囲によって異なりますが、一般的には以下のようなものがあります。

片側の手足や顔の麻痺やしびれ:片麻痺として片側の手足が動かしにくくなります。

言語障害:言葉が出にくくなったり、言葉を理解するのが難しくなる(失語症)。

視覚障害:視野の一部が見えなくなる、物が二重に見えるなど。

バランスの喪失や歩行困難:立ち上がれない、歩くのが難しくなる。

突然の激しい頭痛:特にくも膜下出血では、急な強い頭痛が特徴的です。

意識障害:意識が混濁したり、昏睡状態に陥ることがあります。

脳血管障害のリスク要因

高血圧の管理や糖尿病の治療、コレステロール値のコントロールが重要です。定期的な運動や健康的な食生活、禁煙も予防に役立ちます。発症した場合、早期の診断と治療が重要です。脳梗塞の場合、血栓を溶かす薬や、血流を回復させる手術が行われることがあります。リハビリテーションも、後遺症の回復に大きな役割を果たします。以下のリスク要因が脳血管障害の発症に大きく関与しています。

高血圧:血管にかかる圧力が強くなることで、血管が損傷しやすくなります。

糖尿病:血管を傷つけやすく、脳梗塞のリスクを高めます。

高コレステロール:血管内に脂肪がたまり、動脈硬化を引き起こします。

喫煙:血管にダメージを与え、動脈硬化や血栓形成のリスクを高めます。

不整脈や心臓病:特に心房細動は、血栓ができやすく、これが脳に到達すると脳梗塞を引き起こすことがあります。

その他:運動不足や肥満、過剰なアルコール摂取などの生活習慣もリスク要因となります。

発症後、保険でできるリハビリ期間について

脳卒中後のリハビリテーションは、発症から180日間(6ヶ月間)が保険適用で行える標準的な期間です。入院リハビリ、外来リハビリともに、この期間が保険適用の基準となります。6ヶ月以降は、介護保険を活用したリハビリが主になりますが、患者の状態に応じてリハビリを続けることができます。(医療保険や自費での鍼灸治療も加えることをご検討ください。)

鍼灸治療のメリット

鍼灸は、伝統的な東洋医学の一部であり、経絡やツボを刺激することで、体の自然な治癒力を高める効果が期待されています。脳血管障害による後遺症は、運動機能や感覚機能、言語機能などの幅広い領域に影響を与えるため、リハビリテーションと併用して鍼灸を行うことで、症状の改善やQOL(生活の質)の向上が期待されます。比較的安全な治療法とされていますが、医師や鍼灸師との連携が重要です。脳血管障害後の状態や他の治療との相互作用を考慮し、鍼灸治療が適しているかどうかを専門家と相談して進めることが大切です。

(1)筋緊張の緩和

脳卒中後の後遺症として、片麻痺や筋肉のこわばり(痙縮)がよく見られます。鍼灸は、筋肉の緊張を和らげ、リラックスさせる効果があります。特に、麻痺が残っている手足の硬直や痛みを軽減することができ、リハビリテーションでの動作の改善をサポートします。

(2)血流の改善

鍼を刺すことで、局所的に血流が改善され、患部の酸素や栄養の供給が促進されます。これは、脳血管障害によるダメージを受けた脳や神経の修復過程をサポートする効果が期待されます。また、血液循環が改善されることで、疲労感やだるさを軽減することができます。

3)痛みの軽減

脳血管障害後に、肩や関節に痛みを感じることがあります。鍼灸治療は、鎮痛作用があり、痛みを緩和する効果が期待されます。特に、片麻痺の側で感じる肩の痛みや腰痛などの改善に役立ちます。

(4)感覚機能の改善

脳血管障害後に感覚麻痺(しびれや感覚の鈍さ)が残る場合があります。鍼灸は、神経伝達を活性化させ、感覚の回復を助ける効果があるとされています。特に、触覚や痛覚の回復を促すことが期待されます。

(5)自律神経の調整

脳血管障害後、体内の自律神経のバランスが乱れることがあります。これにより、ストレス、睡眠障害、消化不良、血圧の変動などが発生することがあります。鍼灸は、自律神経のバランスを整え、全身の調和を促進する作用があります。これにより、心身の安定やリラックス効果が得られることが期待されます。

(6)精神的なリラクゼーション

鍼灸治療は、身体だけでなく、精神的なストレスや不安を軽減する効果もあります。脳血管障害後の不安感や抑うつ状態を改善するために、鍼灸が心のバランスを整えるサポートになることが報告されています。

(7)生活の質(QOL)の向上

脳血管障害後の後遺症によって日常生活が制限されると、患者の生活の質が低下することがあります。鍼灸治療によって、運動機能や痛み、疲労感が軽減されると、日常生活の活動がよりスムーズに行えるようになり、生活の質が向上することが期待できます。

治療的自己と鍼灸治療について

治療的自己とは?

モンタナ州大学の心理学教授である J.G. Watkins(John G. Watkins)が提唱した「治療的自己(Therapeutic Self)」の概念は、心理療法におけるセラピストの役割を深く探求したものです。(参考1)Watkinsは、特に 催眠療法 や 人格構造の治療的統合 に関心を持ち、セラピストが治療的な関係の中で自身をどのように効果的に活用できるかを重視しました。以下にWatkinsの治療的自己に関する主要な考え方を説明します。

1. 治療的自己の本質

Watkinsによる「治療的自己」は、セラピストが自分自身の人格、スキル、態度、そして存在を、意図的かつ治療的に患者との関係において活用する能力を指します。これは単なる技術やスキルの使用を超え、セラピスト自身が治療のプロセスの一部となることを意味します。

2. 治療的自己の発展

Watkinsは、治療的自己を発揮するためには以下の点が重要であると述べています。

自己認識: セラピストは、自分自身の感情、価値観、バイアス、人格特性を深く理解し、それが治療関係にどのように影響を与えるかを意識する必要があります。

感情のコントロール: セラピストは、クライアントとの関係において自分の感情を適切に管理し、感情移入しすぎないことが重要です。

クライアントとの共感的関係: セラピストは、クライアントの視点を理解し、その感情や体験に寄り添うことが治療の核心であると考えました。

3. 催眠療法との関連

Watkinsは、催眠療法の分野での先駆者であり、クライアントの無意識にアクセスするプロセスにおいて、セラピストの治療的自己が極めて重要であると考えました。具体的には、セラピストがクライアントに安心感を与え、信頼を築くことで、クライアントが無意識の深い部分に到達しやすくなると提唱しています。

4. 人格の統合と治療的自己

Watkinsは、解離性障害や多重人格の治療にも関与しており、治療的自己が人格の分裂を統合する際に重要な役割を果たすと考えました。セラピストは、クライアントの異なる側面や自己部分を受け入れることで、統合を促進する安全な環境を提供する必要があると述べています。

5. Watkinsの影響

Watkinsの治療的自己に関する考え方は、心理療法全般における「セラピスト自身の役割」の理解を深める上で非常に影響力がありました。彼の理論は、催眠療法や解離性障害の治療だけでなく、他の心理療法の分野でも応用可能な洞察を提供しています。

Watkinsのアプローチは、セラピストが単なる「治療技術の提供者」ではなく、治療的な関係性そのものを作り出す存在であることを強調しています。このような視点は、現代の心理療法やカウンセリングにおいても非常に重要な概念として受け継がれています。

鍼灸治療においてどのように役立つか?

「治療的自己(Therapeutic Self)」の概念は、鍼灸治療のような伝統的医療でも重要な役割を果たします。鍼灸治療は、身体的な症状の軽減に加えて、患者の心理的、感情的な側面に働きかけるホリスティックなアプローチを特徴とするため、治療者自身の態度や治療関係の質が治療効果に大きく影響します。以下に、Watkinsの「治療的自己」が鍼灸治療にどのように役立つかを具体的に説明します。

1. 治療者の「存在感」と治療環境の整備

鍼灸治療では、治療者と患者の間の信頼関係が重要です。Watkinsの「治療的自己」の概念では、治療者の態度や存在そのものが治療的な要素となることを強調しています。

鍼灸における応用: 鍼灸師が穏やかで安心感を与える態度を示し、患者にリラックスできる環境を提供することで、患者の体と心の両方が治療を受け入れやすくなります。たとえば、穏やかな声のトーンや丁寧な説明は、患者の不安を軽減します。

2. 患者の心理的反応を理解する能力

鍼灸治療中には、患者が身体的反応だけでなく、感情的な変化を経験することもあります。Watkinsの治療的自己は、治療者が患者の感情的な反応に共感し、それを治療プロセスに統合するスキルを養うことを奨励します。

具体例: 鍼灸施術中に患者が過去のトラウマやストレスを思い出す場合、鍼灸師は患者の感情を受け入れつつ、過度な干渉をせず、治療を進めるバランス感覚が求められます。

3. 触覚と接触を通じた治療的自己の発揮

鍼灸は身体への直接的な接触を伴う治療法であるため、治療者の手技や接触そのものが患者に治療的な影響を与えます。Watkinsの治療的自己の視点では、治療者の意図やエネルギーが患者に伝わると考えられます。

鍼灸師の技術と態度の融合: 鍼を挿入する際の慎重さや、ツボを押さえる手の優しさが、治療の効果を高めるだけでなく、患者のリラクゼーションや信頼感にも寄与します。

4. 患者の内的プロセスを促進する役割

Watkinsは、治療的自己を通じて患者が自分の内的なプロセスに向き合い、癒しを進められるようにサポートする重要性を述べています。鍼灸治療では、患者が自身の身体感覚やエネルギーの流れに気づき、自己治癒力を引き出すことが目的の一つです。

実践例: 鍼灸師が患者に、自分の身体感覚に意識を向けるよう優しく促すことで、治療効果を深めることができます。「このツボを刺激するとどんな感じがしますか?」といった問いかけを通じて、患者の内的な気づきを引き出すことが可能です。

5. 患者との信頼関係の構築

鍼灸治療の成功には、患者との信頼関係が欠かせません。Watkinsの治療的自己では、治療者が自己認識を持ち、偏見や判断を排除して患者に向き合うことが求められます。

鍼灸治療における応用: 患者の訴えをしっかりと聞き、その人特有の体験を尊重する姿勢は、患者に安心感を与えます。これにより、治療者と患者の間に強固な信頼関係が生まれ、治療効果が向上します。

6. 心理的効果の向上とプラセボ効果の活用

心身医学の視点に基づくと、鍼灸治療では患者の心理的状態が治療結果に影響を与えることがあります。Watkinsの治療的自己を活用することで、患者の心理的安心感や治療への信頼が高まり、プラセボ効果も含めた治療全体の効果が向上します。

応用例: 鍼灸師が治療の目的や効果をポジティブに説明することが、患者の治癒力を引き出す助けとなります。

まとめ

J.G. Watkinsの「治療的自己」の概念は、鍼灸治療において次のように役立ちます。

・ 治療環境の整備によるリラクゼーションの促進

・ 患者の心理的反応への対応による治療の深まり

・ 治療者の触覚や存在感を通じた治療効果の向上

・ 患者の自己治癒力を引き出すサポート

・ 信頼関係の構築を通じた治療効果の最大化

・ 鍼灸治療の効果を最大化するためには、Watkinsが強調したように、治療者自身の意識的な関与が重要です。これにより、患者は心身の癒しを深く体験することができます。

どのような疾患の方に特に有効か?

「治療的自己(Therapeutic Self)」の概念を鍼灸治療に活用する場合、治療者の存在そのものや態度、患者との関係性が治療効果を高める要因となります。このアプローチが特に有効だと考えられる患者の症状や状況には、以下のようなものがあります。

1. 心理的ストレスや精神的な不調が関与する症状

心理的な要因が症状の悪化や慢性化に影響している場合、治療者との信頼関係や共感が症状の改善を助けることがあります。

適応症:不安症や抑うつ状態、ストレス関連の頭痛や緊張型頭痛、不眠症、過敏性腸症候群(IBS)や胃腸の不調など

理由: 治療的自己の概念を通じて、患者に「安心感」や「共感されている」という感覚を与えることで、心理的負担を軽減し、自律神経系のバランスを整える効果が期待されます。

2. 慢性疼痛や原因不明の症状

慢性的な痛みや原因が特定されにくい症状を抱える患者では、身体的な治療だけでなく、心理的・感情的なサポートが重要です。

適応症:慢性腰痛や肩こり、繰り返す筋緊張や関節痛、線維筋痛症など

理由: 治療者の共感的な態度と寄り添う姿勢が、患者の痛みに対する認識を変え、症状の軽減につながります。また、鍼灸が神経系やホルモン系に与える効果と、治療者の心理的サポートが相乗効果を発揮します。

3. トラウマや心身症のある患者

過去のトラウマや心理的負担が身体症状として現れている患者では、治療者の態度や環境が回復の重要な鍵となります。

適応症:心因性の痛みや体調不良、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に関連した症状、解離性障害に伴う身体症状など

理由: 治療的自己を活用し、非侵襲的で安心感のある治療環境を提供することで、患者が心身の統合を取り戻す手助けができます。

4. 自律神経失調症や全身の不定愁訴

治療者との信頼関係や心理的な安心感が、自律神経の安定化に寄与し、症状の改善を助ける可能性があります。

適応症:疲労感や倦怠感を伴う疾患、めまいや耳鳴り症状、ホルモンバランスの乱れによる更年期症状など

理由: 治療的自己を通じて患者の状態に寄り添いながら、鍼灸の効果(経穴刺激による自律神経調整)を最大化します。

5. 妊娠中・産後のケア

妊娠中や産後の女性は身体的変化とともに心理的負担も大きいため、治療者の態度が大きな影響を及ぼします。

適応症:妊娠中のつわりや腰痛、産後の疲労やうつ症状、授乳トラブルに伴うストレスなど

理由: 妊産婦にとって、安心感のある治療環境と治療者との信頼関係が、心身の回復において非常に重要です。

6. 終末期医療や緩和ケア

治療的自己を用いることで、患者の苦痛を和らげ、安心感や穏やかな心境を提供できます。

適応症:癌の緩和ケア、終末期の疼痛管理や不安軽減など

理由: 鍼灸のリラクゼーション効果に加え、治療者の存在そのものが患者の不安を軽減し、精神的な支えとなる役割を果たします。

治療的自己が特に効果を発揮する理由

患者との信頼関係の構築: 患者が「自分のことを理解してくれている」と感じることで、治療の受容性が高まり、治癒力が促進されます。

心理的安心感の提供: 治療者の態度や雰囲気が患者に安心感を与え、ストレスを軽減します。これは、痛みや不安を感じている患者にとって特に重要です。

統合的アプローチ: 治療的自己を基盤に、身体と心を統合的にケアすることで、鍼灸の効果を最大限に活用できます。

 

参考1:心身医学的治療において治療的自己は重要な役割を果たす。

納得し治療を進めるためのアンケート

弊所では患者さんが施術者の方針に納得・理解し鍼灸治療を受けていただきたいのでヘルスコミュニケーション的な観点から作成したアンケートを実施しています。以下にPDFを公開します。1ページ目は鍼灸治療2回目もしくは3回目、2ページ目は鍼灸治療5回目くらいの慣れてきたタイミングで実施しているものです。

双方向の理解がある鍼灸院を目指しています。アンケート以外でも何かあれば口頭やLINEからお気軽にご質問、ご相談ください。

方針を決めていくためのシート

鍼灸師・あマ指師・医療系学生は割引

初回7150円→6150円

2回目以降6600円→5600円

同業者特別回数券6回分(期限なし・ご本人様のみ利用可能)39600円→30000円:1回あたり5000円

に優待します。身分証などは必要ないです。同業者だと申し出て下さった方は優待しますのでお電話かラインで予約の際お申し出ください。調査や体験的な形で利用していただいても構いませんが、講義ではなくあくまで施術なのでご期待に副えるかはわかりません。純粋に施術を受けたい方がご利用下さい。

12/11~12/27東京都キャッシュレス10パーセント還元

2024年12/11~12/27まで東京都もっと!!暮らしを応援TOKYO元気キャンペーンが始まります。PayPay、D払い、auPay、楽天Payのキャッシュレス決済をすると10パーセントポイント還元になります。実施期間は2024年12月11日から12月27日ですが昨年も予定より早く終了したためご希望の方は早めにご利用ください。詳しくは東京都の特設サイトからご確認ください。

 

人類学、社会学、哲学等の知見を鍼灸治療に生かす

人類学、社会学、哲学などの分野を人文科学と呼びます。一見、医療には関係なさそうな話ですが鍼灸臨床を行う上でとても役に立つので私はこの分野が好きで勉強してきました。医療に関する人類学や社会学は「医療人類学」、「医療社会学」などと呼ばれ日本の大学でも研究されています。以下にその特徴や、どのように鍼灸治療に生かすことが出来るのかについて書きます。

医療人類学とは?

医療人類学(いりょうじんるいがく)は、人類学の一分野であり、医療や健康、病気、治療、そしてそれらに関連する文化的・社会的な側面を研究する学問です。この学問では、異なる文化や社会における健康観、病気の理解、治療法、医療システムの成り立ちやその役割を探求します。医療人類学の主要な関心領域は以下の通りです。

病気や健康の文化的理解: 病気や健康に対する認識は文化によって異なります。ある社会では病気がスピリチュアルな問題と考えられることもあれば、別の社会では生物学的な問題として捉えられます。医療人類学では、これらの違いを分析し、それが医療行為や治療にどのように影響を与えるかを探ります。

伝統的治療法と現代医療: 多くの社会では、伝統的な治療法と西洋医学が共存しており、それぞれに異なる信頼や価値が置かれています。医療人類学では、現代医学と伝統的治療法の相互関係や、患者がどの治療法を選ぶのか、その理由を探求します。

医療システムと社会的構造: 医療システムは社会の中で特定の役割を果たしており、その構造は政治、経済、ジェンダー、階級などの社会的要因に大きく影響されます。医療人類学では、医療アクセスの不平等や、貧困層やマイノリティが直面する医療の障壁なども研究対象とします。

医療のグローバル化: グローバル化に伴い、医療技術や知識、医療サービスの提供が国際的に広がっています。これにより、医療資源の流れや、国際的な医療援助の影響についても分析されます。

医療人類学は、生物学的な観点だけでなく、文化的・社会的な視点から医療を理解することで、現代の医療が直面する複雑な問題をより総合的に解明しようとする学問です。

医療社会学とは?

医療社会学(いりょうしゃかいがく)は、社会学の一分野で、医療や健康、病気、医療制度、そしてそれらに関連する社会的側面を研究する学問です。医療社会学は、医療を個人や社会の枠組みの中で分析し、健康や医療における不平等、制度の役割、医療従事者と患者の関係など、さまざまな社会的要因が医療にどのような影響を与えるかを探求します。医療人類学と重なるテーマもあるのですが主要なテーマは以下の通りです。

健康と病気の社会的要因: 健康や病気は、個人のライフスタイルだけでなく、社会的要因(経済的地位、教育水準、居住地域、環境など)によっても影響されます。医療社会学では、社会的・経済的な背景が健康状態にどのように関与しているかを分析します。

医療制度と政策の分析: 医療制度や政策は、社会全体にどのような影響を与えているかが重要な研究対象です。特に、医療アクセスの不平等や、医療費の負担、医療保険制度の運営とその効果、医療制度の変化が健康格差に与える影響などが探究されます。

医療従事者と患者の関係: 医療現場における医療従事者(医師、看護師、薬剤師など)と患者の関係は、権力の不均衡、コミュニケーションの質、患者の権利、インフォームド・コンセント(説明と同意)など、多くの社会的な要素に影響されます。医療社会学では、こうした関係性が治療の効果や患者の満足度にどう影響するかを研究します。

医療技術の社会的影響: 医療技術の進歩は、診断・治療の改善をもたらす一方で、倫理的問題や社会的格差を生むこともあります。たとえば、人工授精や遺伝子治療、移植医療などの技術は、新しい社会的・倫理的な課題を提起します。これらの技術の使用や普及に対する社会の反応も分析の対象です。

健康行動とライフスタイル: 健康的な生活を送るための行動(運動、食事、禁煙など)は、個人の価値観や社会的圧力、環境に左右されます。医療社会学では、なぜ人々が特定の健康行動を取るのか、どのような社会的要因が健康的な行動を促進または妨げるのかを探ります。

健康と医療におけるジェンダーや人種、階級の役割: 医療の提供や健康状態におけるジェンダー、人種、階級の影響も重要なテーマです。たとえば、女性が経験する特有の健康問題や、マイノリティが医療システムで直面する不平等についても研究します。

医療社会学は、医療が単なる科学や技術の問題ではなく、社会の中でどのように運営され、どのように影響を受け、変化していくかを理解するための社会学的なアプローチを提供します。これにより、医療の不平等や健康の格差といった現代社会の問題を総合的に解明し、解決策を模索することができます。

医療哲学とは?

医療哲学(いりょうてつがく)は、医療に関連する倫理的・哲学的な問題を探求する学問分野です。医療の現場で生じる価値観や判断、倫理的な課題を哲学的に考察し、医療行為や医療制度が持つ意味や目的について深く理解しようとするものです。医療哲学は、生命、健康、病気、死、苦しみといった根本的な人間の存在にかかわる問題を扱いながら、医療の実践に関する倫理的な指針や理論的枠組みを提供します。医療哲学の主なテーマは以下の通りです。

生命と死の定義: 「生命とは何か」「死とは何か」という問いは、医療哲学の中心的な問題です。特に、脳死や植物状態といった状態における生命の定義、延命治療の限界など、生命の終わりに関する哲学的議論は重要なテーマとなっています。

医療倫理: 医療哲学の中でも、医療倫理は大きな位置を占めています。例えば、医師と患者の間でのインフォームド・コンセント(説明と同意)、患者の自己決定権、医療の正義(公平な医療資源の分配)、そして医療従事者の倫理的義務といったテーマが議論されます。臓器移植や遺伝子操作、終末期医療、安楽死といったトピックにおいて、医療倫理の問題は特に顕著です。

患者の権利と自己決定: 患者の尊厳と権利をどのように尊重するかは、医療哲学の重要な議論の一つです。患者が自身の治療に関してどこまで自己決定権を持つべきか、またその権利をどのように守るべきかについての議論が深められます。特に、意識のない患者や判断能力のない患者の場合、誰がどのように意思決定を行うべきかという問題が提起されます。

公正と公平の問題: 医療資源の分配やアクセスに関する倫理的問題も医療哲学の重要なテーマです。たとえば、限られた医療資源をどのように配分するべきか、どのようにして全ての人々に公正で平等な医療サービスを提供するかという問題があります。この分野では、医療の不平等や格差の問題、貧困層やマイノリティへの医療アクセスの不平等が扱われます。

医療技術の倫理的影響: 医療技術の進歩に伴う倫理的課題も医療哲学の重要な研究分野です。例えば、人工知能(AI)や遺伝子編集、クローン技術、生命維持装置、人工授精など、新しい技術がもたらす倫理的問題についての議論が行われます。これらの技術が医療にどのような影響を与え、どのような倫理的ガイドラインが必要かが考察されます。

苦しみとケア: 病気や痛み、苦しみに対する人間の体験をどのように理解し、それに対してどのように対応するべきかも医療哲学の関心事項です。治療の目的は単に病気を治すことだけでなく、苦しみを緩和し、患者の全人的なケアを行うことだという視点から、ケアの倫理について議論されます。

健康の概念: 「健康とは何か」という問いに対して、単なる病気の不在ではなく、身体的、精神的、社会的な福祉の状態を含めた広い概念として健康を定義し直す試みが行われています。医療哲学では、こうした健康の概念について哲学的な分析を行います。

医療哲学は、医療従事者が日々直面する倫理的問題に対する理論的な枠組みや指針を提供し、医療現場における意思決定をより深く理解し、支える役割を果たします。また、医療の実践における人間の尊厳や正義、公正さを守るための理論的基盤を形成します。哲学は医療の実践に直接関与しながらも、医療行為の背後にある倫理的・哲学的な問題を深く掘り下げ、医療のあり方やその目的についての洞察を提供する学問です。

これらの知見を鍼灸治療に生かすには?

鍼灸治療の現場で、医療人類学、医療社会学、医療哲学の知見を活かす方法は多様で、患者の健康や治療に対するアプローチをより深く、総合的に理解し、患者に寄り添った治療を提供することができます。それぞれの分野の知見をどのように生かすかを見ていきましょう。

1. 医療人類学の知見を生かす方法

医療人類学は、文化的な背景や社会的な文脈の中で健康や病気を捉える視点を提供します。鍼灸治療は、伝統的な医療として多くの文化で用いられ、その価値観や実践方法も文化によって異なります。この知見を生かすことで、患者の背景や信念を尊重した治療が可能になります。

患者の文化的背景の理解: 鍼灸は伝統的に中国や日本などで用いられていますが、患者がどの文化的背景から来たのかによって、鍼灸に対する期待や信念が異なることがあります。例えば、ある文化では鍼灸が病気のスピリチュアルな側面と深く結びついているかもしれませんし、別の文化では西洋医学との補完的な治療法として捉えられているかもしれません。患者の信念や期待を理解することで、治療の提供方法を柔軟に調整することができます。

伝統医療と現代医療の橋渡し: 鍼灸が伝統的な治療法である一方で、現代医学とも共存する場面が増えています。医療人類学の知見を生かして、患者がどのような治療法を選んでいるのか、現代医療と伝統医療をどのように組み合わせているのかを理解し、個々の患者に合わせた統合的な治療計画を立てることができます。

2. 医療社会学の知見を生かす方法

医療社会学は、医療の提供や健康における社会的な不平等や構造を分析する学問です。鍼灸治療でも、社会的な要因が患者の治療の選択や健康状態に影響を与えるため、これらの要因を理解し対応することが重要です。

社会的・経済的格差への配慮: 経済的な状況、教育水準、居住地などによって、患者が鍼灸治療を受けられる機会が制限されることがあります。医療社会学の知見を生かして、こうした格差を考慮し、経済的に困難な患者にもアクセス可能な治療プランを提供することや、必要に応じてコミュニティでのケアや保険適用の機会を拡大するための政策的提言を行うことが考えられます。

患者と治療者の関係性の構築: 鍼灸治療では、治療者と患者の信頼関係が治療効果に大きな影響を与えます。医療社会学の知見を活かし、患者がどのような期待や不安を抱えているか、また治療者とのコミュニケーションがどのように治療成果に影響するかを理解することで、より良い関係性を築き、治療の質を向上させることができます。

3. 医療哲学の知見を生かす方法

医療哲学は、医療行為における倫理的・哲学的な問いを探求し、治療の目的や価値について考える学問です。鍼灸治療においても、患者の権利や自己決定、治療の意義を哲学的に考えることで、より倫理的で意義のある治療を提供できます。

インフォームド・コンセントと自己決定: 鍼灸治療においても、患者が自身の治療に関して十分な説明を受け、自ら意思決定できることが重要です。医療哲学の視点を取り入れることで、鍼灸の治療内容やリスク、期待される効果について、患者が理解した上で意思決定できるようサポートし、患者の自己決定権を尊重する治療を行うことができます。

治療の目的と全人的ケア: 医療哲学の知見を生かすことで、鍼灸治療が単に病気の治療だけでなく、患者の生活の質や全人的なケアにどのように貢献できるかを考えることができます。痛みや不調を和らげることだけでなく、患者の精神的、社会的な幸福も重視する「ホリスティックなケア」を提供するための哲学的な基盤が得られます。

終末期医療や緩和ケアにおける鍼灸: 終末期医療や緩和ケアの場面で、鍼灸治療が痛みや苦しみを和らげ、患者の尊厳を保つために役立つことがあります。医療哲学の視点から、こうした状況で鍼灸がどのように倫理的に利用されるべきか、またどのように患者の尊厳を守るかを考慮することができます。また終末期医療だけではなく慢性疾患や障害を持つ方へのアプローチにもその知見が役に立つでしょう。

まとめ、統合的なアプローチ

鍼灸治療の現場で、医療人類学、医療社会学、医療哲学の知見を統合的に活用することで、患者個人の文化的背景や社会的状況、倫理的な視点を考慮しつつ、より包括的で人間中心のケアを提供できます。

たとえば、ある患者がある治療に強い信念を持っている場合(ワクチンが怖い、鍼や漢方は素晴らしいなど)、その文化的背景(医療人類学的視点)を尊重しながら、社会的な状況やアクセスの問題(医療社会学的視点)を配慮し、患者の自己決定権と治療の倫理性(医療哲学的視点)を守りつつ治療を提供することができます。このようなアプローチによって、鍼灸治療は単なる技術的な医療行為にとどまらず、患者の全体的な幸福を支える重要な役割を果たすことができます。

高齢者や病気・障害がある方への出張施術

田無北口鍼灸院では出歩けない方への出張施術も行っています。

・車いすで生活をしている。

・要介護認定を受けている。

・精神疾患があり出歩けない。

・現在治療中の病気がある。

など

理由は様々ですが、出張により施術を行うことで痛みや自律神経の症状改善が見られ生活の質が上がることがあります。

田無北口鍼灸院では鍼灸施術に加え以下のようなサービスも無料で行いますのでお困りの方は遠慮なくご相談下さい。

看護師・医師への報告と連携

第三者から見ても分かる施術記録(カルテ)を残しているのでいつでも報告書を作成することが出来ます。必要があればドクターや看護師さんへ毎月報告書を書きますので遠慮なくご相談ください。

出張による鍼灸を依頼する方はすでに訪問看護や訪問診療(医師の診察)を受けていることがあります。持病のためクリニックに通院していることがあります。「鍼灸治療は東洋医学的な治療体系のため何をやっているかよくわからない」というご意見を他の医療者からも聞くことがありますが、弊所では現代医学的な説明・言葉でも積極的に情報共有や連携を行います。

介護・福祉分野への報告と連携

ケアマネージャーさんを中心としたサービス担当者会議などへも出席可能です。また福祉分野との連携が必要な場合は個人情報に配慮したうえで行政への報告や相談も速やかに行います。

見守りサービス

一人暮らしの方や体調不良でメンタルが不調な方への訪問見守りサービスも行います。夜間の訪問はできませんが、依頼があればなるべく早急に駆けつけます。お電話での相談にも応じます。*しかし、緊急時は救急車を呼ぶようにお伝えします。一例を挙げますと一人暮らしの高齢者の方が自宅で転倒し「痛みが強いので今すぐ出張してほしい。」との依頼が過去にありましたが、発生状況や痛みの度合いをお電話で聞いたところ圧迫骨折の疑いがあったためすぐに病院へ行くよう勧めました。

また鍼灸治療が可能かどうか?を見るために血圧計や体温計などを持参しバイタルチェックを行うこともできます。介護施設等ですでに行っている場合は重複するために実施しませんが、ご希望の方は遠慮なくご相談ください。

持病・障害の一例

高齢者や障害がある方は様々な病気で悩んでいます。鍼灸治療をやったほうがいいと思われる持病にはたくさんの疾患が存在しますが、以下にいくつか例を挙げます。他にも様々な疾患に対して有効ですのでお悩みの病気がある方は事前にご相談ください。

1,脳卒中・脳血管障害の後遺症

脳梗塞や脳出血の後遺症は筋緊張などが発生し生活の質(QOL)低下があるため症状を緩和できる鍼灸がおすすめできます。

2,脊髄損傷

程度にもよりますが脊髄損傷になるとむくみや痛み、自律神経障害(寝れない、汗がかけない等)に悩まされるため鍼灸治療が有効です。

3,能瀬麻痺

筋緊張が生じるため緩和目的の施術をすることが有効です。

4,ALS

痛みや自律神経障害だけでなく嚥下障害(機能低下)にも鍼灸治療が有効です。