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    田無北口鍼灸院の連絡事項やお休みのお知らせニュースのまとめ制度について思うこと・・・などまとめていきます。問い合わせがある場合は院に直接連絡くださいますようお願いいたします。

治療的自己と鍼灸治療について

治療的自己とは?

モンタナ州大学の心理学教授である J.G. Watkins(John G. Watkins)が提唱した「治療的自己(Therapeutic Self)」の概念は、心理療法におけるセラピストの役割を深く探求したものです。(参考1)Watkinsは、特に 催眠療法 や 人格構造の治療的統合 に関心を持ち、セラピストが治療的な関係の中で自身をどのように効果的に活用できるかを重視しました。以下にWatkinsの治療的自己に関する主要な考え方を説明します。

1. 治療的自己の本質

Watkinsによる「治療的自己」は、セラピストが自分自身の人格、スキル、態度、そして存在を、意図的かつ治療的に患者との関係において活用する能力を指します。これは単なる技術やスキルの使用を超え、セラピスト自身が治療のプロセスの一部となることを意味します。

2. 治療的自己の発展

Watkinsは、治療的自己を発揮するためには以下の点が重要であると述べています。

自己認識: セラピストは、自分自身の感情、価値観、バイアス、人格特性を深く理解し、それが治療関係にどのように影響を与えるかを意識する必要があります。

感情のコントロール: セラピストは、クライアントとの関係において自分の感情を適切に管理し、感情移入しすぎないことが重要です。

クライアントとの共感的関係: セラピストは、クライアントの視点を理解し、その感情や体験に寄り添うことが治療の核心であると考えました。

3. 催眠療法との関連

Watkinsは、催眠療法の分野での先駆者であり、クライアントの無意識にアクセスするプロセスにおいて、セラピストの治療的自己が極めて重要であると考えました。具体的には、セラピストがクライアントに安心感を与え、信頼を築くことで、クライアントが無意識の深い部分に到達しやすくなると提唱しています。

4. 人格の統合と治療的自己

Watkinsは、解離性障害や多重人格の治療にも関与しており、治療的自己が人格の分裂を統合する際に重要な役割を果たすと考えました。セラピストは、クライアントの異なる側面や自己部分を受け入れることで、統合を促進する安全な環境を提供する必要があると述べています。

5. Watkinsの影響

Watkinsの治療的自己に関する考え方は、心理療法全般における「セラピスト自身の役割」の理解を深める上で非常に影響力がありました。彼の理論は、催眠療法や解離性障害の治療だけでなく、他の心理療法の分野でも応用可能な洞察を提供しています。

Watkinsのアプローチは、セラピストが単なる「治療技術の提供者」ではなく、治療的な関係性そのものを作り出す存在であることを強調しています。このような視点は、現代の心理療法やカウンセリングにおいても非常に重要な概念として受け継がれています。

鍼灸治療においてどのように役立つか?

「治療的自己(Therapeutic Self)」の概念は、鍼灸治療のような伝統的医療でも重要な役割を果たします。鍼灸治療は、身体的な症状の軽減に加えて、患者の心理的、感情的な側面に働きかけるホリスティックなアプローチを特徴とするため、治療者自身の態度や治療関係の質が治療効果に大きく影響します。以下に、Watkinsの「治療的自己」が鍼灸治療にどのように役立つかを具体的に説明します。

1. 治療者の「存在感」と治療環境の整備

鍼灸治療では、治療者と患者の間の信頼関係が重要です。Watkinsの「治療的自己」の概念では、治療者の態度や存在そのものが治療的な要素となることを強調しています。

鍼灸における応用: 鍼灸師が穏やかで安心感を与える態度を示し、患者にリラックスできる環境を提供することで、患者の体と心の両方が治療を受け入れやすくなります。たとえば、穏やかな声のトーンや丁寧な説明は、患者の不安を軽減します。

2. 患者の心理的反応を理解する能力

鍼灸治療中には、患者が身体的反応だけでなく、感情的な変化を経験することもあります。Watkinsの治療的自己は、治療者が患者の感情的な反応に共感し、それを治療プロセスに統合するスキルを養うことを奨励します。

具体例: 鍼灸施術中に患者が過去のトラウマやストレスを思い出す場合、鍼灸師は患者の感情を受け入れつつ、過度な干渉をせず、治療を進めるバランス感覚が求められます。

3. 触覚と接触を通じた治療的自己の発揮

鍼灸は身体への直接的な接触を伴う治療法であるため、治療者の手技や接触そのものが患者に治療的な影響を与えます。Watkinsの治療的自己の視点では、治療者の意図やエネルギーが患者に伝わると考えられます。

鍼灸師の技術と態度の融合: 鍼を挿入する際の慎重さや、ツボを押さえる手の優しさが、治療の効果を高めるだけでなく、患者のリラクゼーションや信頼感にも寄与します。

4. 患者の内的プロセスを促進する役割

Watkinsは、治療的自己を通じて患者が自分の内的なプロセスに向き合い、癒しを進められるようにサポートする重要性を述べています。鍼灸治療では、患者が自身の身体感覚やエネルギーの流れに気づき、自己治癒力を引き出すことが目的の一つです。

実践例: 鍼灸師が患者に、自分の身体感覚に意識を向けるよう優しく促すことで、治療効果を深めることができます。「このツボを刺激するとどんな感じがしますか?」といった問いかけを通じて、患者の内的な気づきを引き出すことが可能です。

5. 患者との信頼関係の構築

鍼灸治療の成功には、患者との信頼関係が欠かせません。Watkinsの治療的自己では、治療者が自己認識を持ち、偏見や判断を排除して患者に向き合うことが求められます。

鍼灸治療における応用: 患者の訴えをしっかりと聞き、その人特有の体験を尊重する姿勢は、患者に安心感を与えます。これにより、治療者と患者の間に強固な信頼関係が生まれ、治療効果が向上します。

6. 心理的効果の向上とプラセボ効果の活用

心身医学の視点に基づくと、鍼灸治療では患者の心理的状態が治療結果に影響を与えることがあります。Watkinsの治療的自己を活用することで、患者の心理的安心感や治療への信頼が高まり、プラセボ効果も含めた治療全体の効果が向上します。

応用例: 鍼灸師が治療の目的や効果をポジティブに説明することが、患者の治癒力を引き出す助けとなります。

まとめ

J.G. Watkinsの「治療的自己」の概念は、鍼灸治療において次のように役立ちます。

・ 治療環境の整備によるリラクゼーションの促進

・ 患者の心理的反応への対応による治療の深まり

・ 治療者の触覚や存在感を通じた治療効果の向上

・ 患者の自己治癒力を引き出すサポート

・ 信頼関係の構築を通じた治療効果の最大化

・ 鍼灸治療の効果を最大化するためには、Watkinsが強調したように、治療者自身の意識的な関与が重要です。これにより、患者は心身の癒しを深く体験することができます。

どのような疾患の方に特に有効か?

「治療的自己(Therapeutic Self)」の概念を鍼灸治療に活用する場合、治療者の存在そのものや態度、患者との関係性が治療効果を高める要因となります。このアプローチが特に有効だと考えられる患者の症状や状況には、以下のようなものがあります。

1. 心理的ストレスや精神的な不調が関与する症状

心理的な要因が症状の悪化や慢性化に影響している場合、治療者との信頼関係や共感が症状の改善を助けることがあります。

適応症:不安症や抑うつ状態、ストレス関連の頭痛や緊張型頭痛、不眠症、過敏性腸症候群(IBS)や胃腸の不調など

理由: 治療的自己の概念を通じて、患者に「安心感」や「共感されている」という感覚を与えることで、心理的負担を軽減し、自律神経系のバランスを整える効果が期待されます。

2. 慢性疼痛や原因不明の症状

慢性的な痛みや原因が特定されにくい症状を抱える患者では、身体的な治療だけでなく、心理的・感情的なサポートが重要です。

適応症:慢性腰痛や肩こり、繰り返す筋緊張や関節痛、線維筋痛症など

理由: 治療者の共感的な態度と寄り添う姿勢が、患者の痛みに対する認識を変え、症状の軽減につながります。また、鍼灸が神経系やホルモン系に与える効果と、治療者の心理的サポートが相乗効果を発揮します。

3. トラウマや心身症のある患者

過去のトラウマや心理的負担が身体症状として現れている患者では、治療者の態度や環境が回復の重要な鍵となります。

適応症:心因性の痛みや体調不良、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に関連した症状、解離性障害に伴う身体症状など

理由: 治療的自己を活用し、非侵襲的で安心感のある治療環境を提供することで、患者が心身の統合を取り戻す手助けができます。

4. 自律神経失調症や全身の不定愁訴

治療者との信頼関係や心理的な安心感が、自律神経の安定化に寄与し、症状の改善を助ける可能性があります。

適応症:疲労感や倦怠感を伴う疾患、めまいや耳鳴り症状、ホルモンバランスの乱れによる更年期症状など

理由: 治療的自己を通じて患者の状態に寄り添いながら、鍼灸の効果(経穴刺激による自律神経調整)を最大化します。

5. 妊娠中・産後のケア

妊娠中や産後の女性は身体的変化とともに心理的負担も大きいため、治療者の態度が大きな影響を及ぼします。

適応症:妊娠中のつわりや腰痛、産後の疲労やうつ症状、授乳トラブルに伴うストレスなど

理由: 妊産婦にとって、安心感のある治療環境と治療者との信頼関係が、心身の回復において非常に重要です。

6. 終末期医療や緩和ケア

治療的自己を用いることで、患者の苦痛を和らげ、安心感や穏やかな心境を提供できます。

適応症:癌の緩和ケア、終末期の疼痛管理や不安軽減など

理由: 鍼灸のリラクゼーション効果に加え、治療者の存在そのものが患者の不安を軽減し、精神的な支えとなる役割を果たします。

治療的自己が特に効果を発揮する理由

患者との信頼関係の構築: 患者が「自分のことを理解してくれている」と感じることで、治療の受容性が高まり、治癒力が促進されます。

心理的安心感の提供: 治療者の態度や雰囲気が患者に安心感を与え、ストレスを軽減します。これは、痛みや不安を感じている患者にとって特に重要です。

統合的アプローチ: 治療的自己を基盤に、身体と心を統合的にケアすることで、鍼灸の効果を最大限に活用できます。

 

参考1:心身医学的治療において治療的自己は重要な役割を果たす。

納得し治療を進めるためのアンケート

弊所では患者さんが施術者の方針に納得・理解し鍼灸治療を受けていただきたいのでヘルスコミュニケーション的な観点から作成したアンケートを実施しています。以下にPDFを公開します。1ページ目は鍼灸治療2回目もしくは3回目、2ページ目は鍼灸治療5回目くらいの慣れてきたタイミングで実施しているものです。

双方向の理解がある鍼灸院を目指しています。アンケート以外でも何かあれば口頭やLINEからお気軽にご質問、ご相談ください。

方針を決めていくためのシート

鍼灸師・あマ指師・医療系学生は割引

初回7150円→6150円

2回目以降6600円→5600円

同業者特別回数券6回分(期限なし・ご本人様のみ利用可能)39600円→30000円:1回あたり5000円

に優待します。身分証などは必要ないです。同業者だと申し出て下さった方は優待しますのでお電話かラインで予約の際お申し出ください。調査や体験的な形で利用していただいても構いませんが、講義ではなくあくまで施術なのでご期待に副えるかはわかりません。純粋に施術を受けたい方がご利用下さい。

12/11~12/27東京都キャッシュレス10パーセント還元

2024年12/11~12/27まで東京都もっと!!暮らしを応援TOKYO元気キャンペーンが始まります。PayPay、D払い、auPay、楽天Payのキャッシュレス決済をすると10パーセントポイント還元になります。実施期間は2024年12月11日から12月27日ですが昨年も予定より早く終了したためご希望の方は早めにご利用ください。詳しくは東京都の特設サイトからご確認ください。

 

人類学、社会学、哲学等の知見を鍼灸治療に生かす

人類学、社会学、哲学などの分野を人文科学と呼びます。一見、医療には関係なさそうな話ですが鍼灸臨床を行う上でとても役に立つので私はこの分野が好きで勉強してきました。医療に関する人類学や社会学は「医療人類学」、「医療社会学」などと呼ばれ日本の大学でも研究されています。以下にその特徴や、どのように鍼灸治療に生かすことが出来るのかについて書きます。

医療人類学とは?

医療人類学(いりょうじんるいがく)は、人類学の一分野であり、医療や健康、病気、治療、そしてそれらに関連する文化的・社会的な側面を研究する学問です。この学問では、異なる文化や社会における健康観、病気の理解、治療法、医療システムの成り立ちやその役割を探求します。医療人類学の主要な関心領域は以下の通りです。

病気や健康の文化的理解: 病気や健康に対する認識は文化によって異なります。ある社会では病気がスピリチュアルな問題と考えられることもあれば、別の社会では生物学的な問題として捉えられます。医療人類学では、これらの違いを分析し、それが医療行為や治療にどのように影響を与えるかを探ります。

伝統的治療法と現代医療: 多くの社会では、伝統的な治療法と西洋医学が共存しており、それぞれに異なる信頼や価値が置かれています。医療人類学では、現代医学と伝統的治療法の相互関係や、患者がどの治療法を選ぶのか、その理由を探求します。

医療システムと社会的構造: 医療システムは社会の中で特定の役割を果たしており、その構造は政治、経済、ジェンダー、階級などの社会的要因に大きく影響されます。医療人類学では、医療アクセスの不平等や、貧困層やマイノリティが直面する医療の障壁なども研究対象とします。

医療のグローバル化: グローバル化に伴い、医療技術や知識、医療サービスの提供が国際的に広がっています。これにより、医療資源の流れや、国際的な医療援助の影響についても分析されます。

医療人類学は、生物学的な観点だけでなく、文化的・社会的な視点から医療を理解することで、現代の医療が直面する複雑な問題をより総合的に解明しようとする学問です。

医療社会学とは?

医療社会学(いりょうしゃかいがく)は、社会学の一分野で、医療や健康、病気、医療制度、そしてそれらに関連する社会的側面を研究する学問です。医療社会学は、医療を個人や社会の枠組みの中で分析し、健康や医療における不平等、制度の役割、医療従事者と患者の関係など、さまざまな社会的要因が医療にどのような影響を与えるかを探求します。医療人類学と重なるテーマもあるのですが主要なテーマは以下の通りです。

健康と病気の社会的要因: 健康や病気は、個人のライフスタイルだけでなく、社会的要因(経済的地位、教育水準、居住地域、環境など)によっても影響されます。医療社会学では、社会的・経済的な背景が健康状態にどのように関与しているかを分析します。

医療制度と政策の分析: 医療制度や政策は、社会全体にどのような影響を与えているかが重要な研究対象です。特に、医療アクセスの不平等や、医療費の負担、医療保険制度の運営とその効果、医療制度の変化が健康格差に与える影響などが探究されます。

医療従事者と患者の関係: 医療現場における医療従事者(医師、看護師、薬剤師など)と患者の関係は、権力の不均衡、コミュニケーションの質、患者の権利、インフォームド・コンセント(説明と同意)など、多くの社会的な要素に影響されます。医療社会学では、こうした関係性が治療の効果や患者の満足度にどう影響するかを研究します。

医療技術の社会的影響: 医療技術の進歩は、診断・治療の改善をもたらす一方で、倫理的問題や社会的格差を生むこともあります。たとえば、人工授精や遺伝子治療、移植医療などの技術は、新しい社会的・倫理的な課題を提起します。これらの技術の使用や普及に対する社会の反応も分析の対象です。

健康行動とライフスタイル: 健康的な生活を送るための行動(運動、食事、禁煙など)は、個人の価値観や社会的圧力、環境に左右されます。医療社会学では、なぜ人々が特定の健康行動を取るのか、どのような社会的要因が健康的な行動を促進または妨げるのかを探ります。

健康と医療におけるジェンダーや人種、階級の役割: 医療の提供や健康状態におけるジェンダー、人種、階級の影響も重要なテーマです。たとえば、女性が経験する特有の健康問題や、マイノリティが医療システムで直面する不平等についても研究します。

医療社会学は、医療が単なる科学や技術の問題ではなく、社会の中でどのように運営され、どのように影響を受け、変化していくかを理解するための社会学的なアプローチを提供します。これにより、医療の不平等や健康の格差といった現代社会の問題を総合的に解明し、解決策を模索することができます。

医療哲学とは?

医療哲学(いりょうてつがく)は、医療に関連する倫理的・哲学的な問題を探求する学問分野です。医療の現場で生じる価値観や判断、倫理的な課題を哲学的に考察し、医療行為や医療制度が持つ意味や目的について深く理解しようとするものです。医療哲学は、生命、健康、病気、死、苦しみといった根本的な人間の存在にかかわる問題を扱いながら、医療の実践に関する倫理的な指針や理論的枠組みを提供します。医療哲学の主なテーマは以下の通りです。

生命と死の定義: 「生命とは何か」「死とは何か」という問いは、医療哲学の中心的な問題です。特に、脳死や植物状態といった状態における生命の定義、延命治療の限界など、生命の終わりに関する哲学的議論は重要なテーマとなっています。

医療倫理: 医療哲学の中でも、医療倫理は大きな位置を占めています。例えば、医師と患者の間でのインフォームド・コンセント(説明と同意)、患者の自己決定権、医療の正義(公平な医療資源の分配)、そして医療従事者の倫理的義務といったテーマが議論されます。臓器移植や遺伝子操作、終末期医療、安楽死といったトピックにおいて、医療倫理の問題は特に顕著です。

患者の権利と自己決定: 患者の尊厳と権利をどのように尊重するかは、医療哲学の重要な議論の一つです。患者が自身の治療に関してどこまで自己決定権を持つべきか、またその権利をどのように守るべきかについての議論が深められます。特に、意識のない患者や判断能力のない患者の場合、誰がどのように意思決定を行うべきかという問題が提起されます。

公正と公平の問題: 医療資源の分配やアクセスに関する倫理的問題も医療哲学の重要なテーマです。たとえば、限られた医療資源をどのように配分するべきか、どのようにして全ての人々に公正で平等な医療サービスを提供するかという問題があります。この分野では、医療の不平等や格差の問題、貧困層やマイノリティへの医療アクセスの不平等が扱われます。

医療技術の倫理的影響: 医療技術の進歩に伴う倫理的課題も医療哲学の重要な研究分野です。例えば、人工知能(AI)や遺伝子編集、クローン技術、生命維持装置、人工授精など、新しい技術がもたらす倫理的問題についての議論が行われます。これらの技術が医療にどのような影響を与え、どのような倫理的ガイドラインが必要かが考察されます。

苦しみとケア: 病気や痛み、苦しみに対する人間の体験をどのように理解し、それに対してどのように対応するべきかも医療哲学の関心事項です。治療の目的は単に病気を治すことだけでなく、苦しみを緩和し、患者の全人的なケアを行うことだという視点から、ケアの倫理について議論されます。

健康の概念: 「健康とは何か」という問いに対して、単なる病気の不在ではなく、身体的、精神的、社会的な福祉の状態を含めた広い概念として健康を定義し直す試みが行われています。医療哲学では、こうした健康の概念について哲学的な分析を行います。

医療哲学は、医療従事者が日々直面する倫理的問題に対する理論的な枠組みや指針を提供し、医療現場における意思決定をより深く理解し、支える役割を果たします。また、医療の実践における人間の尊厳や正義、公正さを守るための理論的基盤を形成します。哲学は医療の実践に直接関与しながらも、医療行為の背後にある倫理的・哲学的な問題を深く掘り下げ、医療のあり方やその目的についての洞察を提供する学問です。

これらの知見を鍼灸治療に生かすには?

鍼灸治療の現場で、医療人類学、医療社会学、医療哲学の知見を活かす方法は多様で、患者の健康や治療に対するアプローチをより深く、総合的に理解し、患者に寄り添った治療を提供することができます。それぞれの分野の知見をどのように生かすかを見ていきましょう。

1. 医療人類学の知見を生かす方法

医療人類学は、文化的な背景や社会的な文脈の中で健康や病気を捉える視点を提供します。鍼灸治療は、伝統的な医療として多くの文化で用いられ、その価値観や実践方法も文化によって異なります。この知見を生かすことで、患者の背景や信念を尊重した治療が可能になります。

患者の文化的背景の理解: 鍼灸は伝統的に中国や日本などで用いられていますが、患者がどの文化的背景から来たのかによって、鍼灸に対する期待や信念が異なることがあります。例えば、ある文化では鍼灸が病気のスピリチュアルな側面と深く結びついているかもしれませんし、別の文化では西洋医学との補完的な治療法として捉えられているかもしれません。患者の信念や期待を理解することで、治療の提供方法を柔軟に調整することができます。

伝統医療と現代医療の橋渡し: 鍼灸が伝統的な治療法である一方で、現代医学とも共存する場面が増えています。医療人類学の知見を生かして、患者がどのような治療法を選んでいるのか、現代医療と伝統医療をどのように組み合わせているのかを理解し、個々の患者に合わせた統合的な治療計画を立てることができます。

2. 医療社会学の知見を生かす方法

医療社会学は、医療の提供や健康における社会的な不平等や構造を分析する学問です。鍼灸治療でも、社会的な要因が患者の治療の選択や健康状態に影響を与えるため、これらの要因を理解し対応することが重要です。

社会的・経済的格差への配慮: 経済的な状況、教育水準、居住地などによって、患者が鍼灸治療を受けられる機会が制限されることがあります。医療社会学の知見を生かして、こうした格差を考慮し、経済的に困難な患者にもアクセス可能な治療プランを提供することや、必要に応じてコミュニティでのケアや保険適用の機会を拡大するための政策的提言を行うことが考えられます。

患者と治療者の関係性の構築: 鍼灸治療では、治療者と患者の信頼関係が治療効果に大きな影響を与えます。医療社会学の知見を活かし、患者がどのような期待や不安を抱えているか、また治療者とのコミュニケーションがどのように治療成果に影響するかを理解することで、より良い関係性を築き、治療の質を向上させることができます。

3. 医療哲学の知見を生かす方法

医療哲学は、医療行為における倫理的・哲学的な問いを探求し、治療の目的や価値について考える学問です。鍼灸治療においても、患者の権利や自己決定、治療の意義を哲学的に考えることで、より倫理的で意義のある治療を提供できます。

インフォームド・コンセントと自己決定: 鍼灸治療においても、患者が自身の治療に関して十分な説明を受け、自ら意思決定できることが重要です。医療哲学の視点を取り入れることで、鍼灸の治療内容やリスク、期待される効果について、患者が理解した上で意思決定できるようサポートし、患者の自己決定権を尊重する治療を行うことができます。

治療の目的と全人的ケア: 医療哲学の知見を生かすことで、鍼灸治療が単に病気の治療だけでなく、患者の生活の質や全人的なケアにどのように貢献できるかを考えることができます。痛みや不調を和らげることだけでなく、患者の精神的、社会的な幸福も重視する「ホリスティックなケア」を提供するための哲学的な基盤が得られます。

終末期医療や緩和ケアにおける鍼灸: 終末期医療や緩和ケアの場面で、鍼灸治療が痛みや苦しみを和らげ、患者の尊厳を保つために役立つことがあります。医療哲学の視点から、こうした状況で鍼灸がどのように倫理的に利用されるべきか、またどのように患者の尊厳を守るかを考慮することができます。また終末期医療だけではなく慢性疾患や障害を持つ方へのアプローチにもその知見が役に立つでしょう。

まとめ、統合的なアプローチ

鍼灸治療の現場で、医療人類学、医療社会学、医療哲学の知見を統合的に活用することで、患者個人の文化的背景や社会的状況、倫理的な視点を考慮しつつ、より包括的で人間中心のケアを提供できます。

たとえば、ある患者がある治療に強い信念を持っている場合(ワクチンが怖い、鍼や漢方は素晴らしいなど)、その文化的背景(医療人類学的視点)を尊重しながら、社会的な状況やアクセスの問題(医療社会学的視点)を配慮し、患者の自己決定権と治療の倫理性(医療哲学的視点)を守りつつ治療を提供することができます。このようなアプローチによって、鍼灸治療は単なる技術的な医療行為にとどまらず、患者の全体的な幸福を支える重要な役割を果たすことができます。

高齢者や病気・障害がある方への出張施術

田無北口鍼灸院では出歩けない方への出張施術も行っています。

・車いすで生活をしている。

・要介護認定を受けている。

・精神疾患があり出歩けない。

・現在治療中の病気がある。

など

理由は様々ですが、出張により施術を行うことで痛みや自律神経の症状改善が見られ生活の質が上がることがあります。

田無北口鍼灸院では鍼灸施術に加え以下のようなサービスも無料で行いますのでお困りの方は遠慮なくご相談下さい。

看護師・医師への報告と連携

第三者から見ても分かる施術記録(カルテ)を残しているのでいつでも報告書を作成することが出来ます。必要があればドクターや看護師さんへ毎月報告書を書きますので遠慮なくご相談ください。

出張による鍼灸を依頼する方はすでに訪問看護や訪問診療(医師の診察)を受けていることがあります。持病のためクリニックに通院していることがあります。「鍼灸治療は東洋医学的な治療体系のため何をやっているかよくわからない」というご意見を他の医療者からも聞くことがありますが、弊所では現代医学的な説明・言葉でも積極的に情報共有や連携を行います。

介護・福祉分野への報告と連携

ケアマネージャーさんを中心としたサービス担当者会議などへも出席可能です。また福祉分野との連携が必要な場合は個人情報に配慮したうえで行政への報告や相談も速やかに行います。

見守りサービス

一人暮らしの方や体調不良でメンタルが不調な方への訪問見守りサービスも行います。夜間の訪問はできませんが、依頼があればなるべく早急に駆けつけます。お電話での相談にも応じます。*しかし、緊急時は救急車を呼ぶようにお伝えします。一例を挙げますと一人暮らしの高齢者の方が自宅で転倒し「痛みが強いので今すぐ出張してほしい。」との依頼が過去にありましたが、発生状況や痛みの度合いをお電話で聞いたところ圧迫骨折の疑いがあったためすぐに病院へ行くよう勧めました。

また鍼灸治療が可能かどうか?を見るために血圧計や体温計などを持参しバイタルチェックを行うこともできます。介護施設等ですでに行っている場合は重複するために実施しませんが、ご希望の方は遠慮なくご相談ください。

持病・障害の一例

高齢者や障害がある方は様々な病気で悩んでいます。鍼灸治療をやったほうがいいと思われる持病にはたくさんの疾患が存在しますが、以下にいくつか例を挙げます。他にも様々な疾患に対して有効ですのでお悩みの病気がある方は事前にご相談ください。

1,脳卒中・脳血管障害の後遺症

脳梗塞や脳出血の後遺症は筋緊張などが発生し生活の質(QOL)低下があるため症状を緩和できる鍼灸がおすすめできます。

2,脊髄損傷

程度にもよりますが脊髄損傷になるとむくみや痛み、自律神経障害(寝れない、汗がかけない等)に悩まされるため鍼灸治療が有効です。

3,能瀬麻痺

筋緊張が生じるため緩和目的の施術をすることが有効です。

4,ALS

痛みや自律神経障害だけでなく嚥下障害(機能低下)にも鍼灸治療が有効です。

腸の疾患(過敏性腸症候群、大腸憩室炎など)に鍼灸治療は役に立つか?

結論から言えば症状管理に役に立つと思います。以下に理由をまとめていきます。

症状改善に有効な腸疾患

鍼灸治療が症状改善に有効とされる腸疾患には、以下のようなものがあります。これらの疾患に対して、鍼灸治療は症状の緩和や生活の質の向上を目指して使用されますが、治療効果は個人差があります。また、鍼灸治療を受ける際は、医師や資格を持った鍼灸師と相談し、適切な診断と治療計画を立てることが重要です。たとえば便秘は癌など器質的な病気が原因で起こることもあり得ます。症状改善だけに注目しないことも大切です。

過敏性腸症候群(IBS)

鍼灸治療は、過敏性腸症候群(IBS)の症状緩和に有効とされています。特に、ストレスや不安が引き金となるIBSの症状(腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘など)に対して、鍼灸が自律神経のバランスを整えることで改善効果が期待されます。

炎症性腸疾患(IBD)

クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に対しても、鍼灸治療が補助療法として利用されることがあります。これらの疾患では、鍼灸が疼痛緩和やストレス軽減、免疫系の調整を通じて症状の改善をサポートすることが報告されています。

便秘

鍼灸は、慢性的な便秘の改善にも役立つとされています。鍼灸によって腸の蠕動運動が促進され、排便がスムーズになることが期待されます。

機能性消化不良

消化不良や胃腸の機能障害に対しても鍼灸が有効とされることがあります。特に、消化管の運動機能を調整することで、胃もたれや食欲不振、腹部不快感などの症状を軽減する効果が期待できます。

過敏性腸症候群の鍼灸治療

過敏性腸症候群(IBS)の症状改善に対して、鍼灸治療は有効であるとされる研究がいくつかあります。IBSは、腹痛や腹部膨満感、下痢、便秘などの症状が特徴で、ストレスや食生活などが症状を悪化させることがあります。鍼灸治療は、こうした症状の緩和に効果があると考えられています。

自律神経の調整

IBSの症状は、自律神経の不均衡が関与していることが多いです。鍼灸は自律神経のバランスを整えることで、腸の運動機能や消化器官の血流を改善し、腹痛や便通異常の軽減を図ることが期待されます。

ストレス軽減

ストレスはIBSの症状を悪化させる要因の一つです。鍼灸はリラックス効果をもたらし、ストレスを軽減することで、IBSの症状緩和に寄与するとされています。

痛みの緩和

鍼灸は痛みを和らげる効果があるとされ、IBSによる腹痛や腹部不快感の軽減にも有効です。鍼を刺すことで、体内の痛みを抑制する物質(エンドルフィンなど)の分泌が促進されると考えられています。

研究とエビデンス

一部の研究では、鍼灸治療がIBSの症状を改善する効果があることが報告されています。例えば、鍼灸を受けた患者の中には、症状が軽減したり、生活の質が向上したりしたとの報告があります。ただし、治療効果には個人差があり、全ての患者に同様の効果が見られるわけではありません。またIBSの治療には、食事療法や薬物療法、心理療法などが含まれることが多く、鍼灸治療はそれらと併用する形で利用されることが一般的です。鍼灸を受ける際は、医師と相談の上で、総合的な治療計画の一部として取り入れることが推奨されます。以下に一例を挙げます。

A new acupuncture method for management of irritable bowel syndrome: A randomized double blind clinical trial

憩室炎の鍼灸治療

憩室炎は、大腸の壁にできた憩室(小さな袋状の構造)が炎症を起こす疾患で、腹痛や発熱、消化不良、便通異常などの症状を伴うことがあります。

鍼灸治療は、痛みや炎症を緩和するための補助的な治療法として利用されることがあります。鍼灸が自律神経系や免疫系に作用し、全身のバランスを整えることで症状の軽減を図る可能性はありますが、憩室炎に対して直接的に治療効果があるかどうかは不明です。

憩室炎は、急性期には抗生物質の使用や食事制限が推奨される場合が多く、重症の場合には外科的治療が必要となることもあります。そのため、憩室炎の治療には医師の指導のもと、適切な医療を受けることが最も重要です。鍼灸治療を検討する場合も、主治医に相談し、補助療法として利用するかどうかを判断することが大切です。まだ、憩室炎の患者さんを対象に行われた臨床試験などが不足しているため明確なエビデンスはありませんが症状管理に有効な可能性はあります。

 

クローン病、潰瘍性大腸炎の症状管理でもお役に立てると思います。弊所では漢方治療と併用しながら鍼灸治療を行うことが多いです。お困りの方はお気軽にご相談ください。

悪化してからではなく、定期的に鍼灸治療を受けることをオススメします。

弊所では痛みや不調があった際まずは4・5回の施術を行い状態を安定させていきますがその後、悪くならないようメンテナンス目的の調整・施術を行うことがあります。

症状と経過の例

1,坐骨神経症状で来所。右足がしびれ腰が痛い。

週に1度、5回の施術で改善。

状態が悪くならないようにその後は月に1、2度の施術を行う。

 

2,頭痛症状で来所。

週に1度、4回の施術で改善。

状態が悪くならないようにその後は月に1、2度の施術を行う。

 

3,ぎっくり腰症状で来所。

3回の施術で改善。

状態が悪くならないようにその後は月に1、2度の施術を行う。

東洋医学的な考え方で言いますと「なんとなく疲れが取れない」、「なんとなくだるい」、「コリを感じている」というのは東洋医学的にいうと「未病(みびょう)」といわれ病気の手前、つまり病気の前段階とも考えられます。未病のうち、すなわち初期に良くしてしまえば悪化しないで済むのです。ひどい状態で苦しむことはありません。ぎっくり腰や頭痛、しびれ症状などを一度でも経験した方は健康のありがたみがよくわかると思います。痛くない状態・健康な状態をキープし予防する方が効果的なためにメンテナンス目的の施術を行っています。

悪化する前に。定期的に鍼灸を受けるメリット

定期的に鍼灸治療を受けることにはいくつかのメリットがあります。以下は、その主な利点です。悪化しないほうが治療費も安く済むため費用対効果のメリットもあるかもしれません。

1,痛みの予防と管理

鍼灸は、筋肉や関節の痛みを軽減するのに役立つことが知られています。定期的に治療を受けることで、痛みが悪化する前に対処でき、慢性的な痛みの発生を防ぐことができます。慢性疼痛(例えば腰痛や頭痛)に対する鍼灸治療の効果を調査した研究では、定期的な治療が症状の悪化を防ぎ、痛みの管理に有効であることが示されています。これにより、患者は長期的に痛みを抑え、仕事や日常生活の中での機能を維持できるため、総合的な医療費の削減につながることが期待されます 。(参考1)

2,ストレスの軽減

鍼灸はリラクゼーション効果があり、ストレスの軽減に寄与します。ストレスが少ないと、免疫システムの働きが良くなり、病気やけがの予防にもつながります。

3,体のバランスを保つ

鍼灸は、体内のエネルギーの流れ(気の流れ)を整えるとされており、これによって体全体のバランスを保つことができます。体のバランスが良いと、病気に対する抵抗力が高まり、健康を維持しやすくなります。

4,免疫機能の向上

鍼灸は免疫系を刺激する効果があり、風邪やインフルエンザなどの一般的な感染症に対する抵抗力を高めることができます。定期的に治療を受けることで、免疫機能が向上し、病気にかかりにくくなる可能性があります。

5,ホルモンバランスの調整

鍼灸は、ホルモンのバランスを調整し、月経痛や更年期症状など、ホルモンに関連する問題の緩和に役立つことがあります。定期的に治療を受けることで、ホルモンバランスが整いやすくなります。

6,慢性的な症状の改善

例えば、頭痛、アレルギー、消化不良などの慢性的な問題に対しても、定期的な鍼灸治療が改善を促すことがあります。これにより、症状の悪化を防ぎ、生活の質を向上させることができます。

7,リラクゼーションと心身の健康維持

鍼灸は全身のリラクゼーションを促し、心身の健康を維持するための総合的なアプローチとなります。これにより、心身のバランスを整え、全体的な健康状態を維持することが可能です。定期的に鍼灸治療を受けることで、これらのメリットを享受し、健康の維持と予防に役立てることができます。

メンテナンス開始までの流れ

まずは症状をよくするために集中的に施術を行う(5回から6回程度、 連続で施術を受けてもらうことが多いです)→ある程度落ち着いてきたらメンテナンス目的の施術

という流れになります。まずは気になる症状を改善させましょう。漢方内科などを紹介し医師と一緒に症状改善に当たることもあります。ご相談ください。

*ご注意  

メンテナンス目的の施術をしていても、いまある症状にばかり気を取られ「まだこれだけ症状がある。良くなっていない」というネガティブな発想に なってしまう方がいます。良い部分に目を向けることがとても大切になってきます。メンテナンス目的の施術は症状を取るため 「だけ」に行うものではありません。症状を取ることだけが目的の方はあまり合わないかもしれません。弊所の施術を受けてると調子が良くなる、良い状態がキープできると感じている方へ オススメしています。

ご自身の体調を定期的に振り返ることができますし、メンテナンス目的の施術は東洋医学や鍼灸が最も得意とする分野でもあります。 是非ともご利用ください。

*参考1

慢性疼痛に対する鍼治療:個々の患者データのメタ分析

Vickers AJ, et al. Acupuncture for chronic pain: individual patient data meta-analysis. Arch Intern Med. 2012. : Witt CM, et al. Cost-effectiveness of acupuncture treatment in patients with chronic low back pain. European Journal of Pain. 2006. : Kim TH, et al. Acupuncture for immune enhancement: A systematic review. Journal of Alternative and Complementary Medicine. 2013.

脳梗塞を発症した方が鍼灸治療を受けることのメリット

脳梗塞を発症してしまうと身体の麻痺や言語障害などが発生してしまうことがあります。発生した部位や障害の程度によって差はありますが代表的な症状を以下にあげ、鍼灸治療を行うことノメリットも併せて紹介していきます。リハビリテーションは医師や専門家と相談しながら行うことが大切ですが鍼灸治療もお役に立てます。リハビリが終わってしまったけど症状が残っていてつらい、という方からの相談も多いです。お困りの方は一度ご相談ください。在宅や保険診療で施術を行える場合もあります。

脳梗塞後の症状

1. 運動障害(麻痺)

片麻痺: 脳梗塞によって、体の片側に麻痺が生じることが一般的です。右半球に脳梗塞が起きた場合は左側の手足に、左半球の場合は右側の手足に麻痺が現れます。

運動失調: 筋肉の協調が取れず、動作がぎこちなくなることがあります。これは、小脳が影響を受けた場合に特に顕著です。

2. 感覚障害

感覚鈍麻: 触覚、痛覚、温度感覚が鈍くなることがあります。これにより、手足の感覚が不明瞭になり、物を持ったり操作したりするのが難しくなることがあります。

3. 言語障害(失語症)

運動性失語(ブローカ失語): 言葉を理解する能力は比較的保たれるものの、自分の考えを言葉にして発音するのが難しくなることがあります。

感覚性失語(ウェルニッケ失語): 流暢に話すことはできるものの、言葉の意味を理解するのが難しく、会話が成り立たないことがあります。

4. 認知障害

注意障害: 集中力が続かない、注意を持続するのが難しいといった症状が現れることがあります。

記憶障害: 新しい情報を覚えるのが難しくなることや、過去の記憶が曖昧になることがあります。

実行機能障害: 計画を立てたり、物事を順序立てて進めたりする能力が低下することがあります。

5. 視覚障害

視野欠損: 視野の一部が見えなくなることがあります。例えば、両目の右半分または左半分が見えない「同名半盲」などが見られます。

複視: 両目で物を見る際に、物が二重に見えることがあります。

6. 嚥下障害

食べ物や飲み物を飲み込むのが難しくなることがあります。これにより、誤嚥(食べ物や液体が気管に入ること)が増え、肺炎のリスクが高まることがあります。

7. 精神的・情緒的な問題

うつ病: 脳梗塞後の障害に対する心理的な反応や脳のダメージにより、うつ状態に陥ることがあります。

感情失禁: 感情のコントロールが難しくなり、些細なことで泣いたり笑ったりしてしまうことがあります。

8. 排尿・排便障害

膀胱や腸のコントロールが難しくなることがあります。これにより、尿失禁や便秘などの問題が発生することがあります。
これらの後遺症は、患者の個別の状況によって異なりますが、リハビリテーションや適切な治療により、多くの場合で症状の改善が期待できます。適切な医療チームと連携して治療計画を立てることが重要です。

鍼灸治療を行うメリット

脳梗塞後のリハビリで鍼灸治療を取り入れることには、患者にとって以下のようなメリットがあり回復を早めることが出来ます。弊所では必要に応じて主治医に手紙で報告書等も作成します。

1. 自然治癒力の向上

鍼灸治療は身体の自然治癒力を高める効果があります。これにより、脳梗塞後の回復を促進し、患者の全体的な健康状態を向上させることが期待できます。

2. 副作用の少ない治療

鍼灸は薬物療法と比べて副作用が少なく、薬の服用に制限がある患者にも安全に利用できる治療法です。特に、多くの薬を服用している高齢者や薬に敏感な患者にとって、大きなメリットとなります。

3. 個別対応の治療

鍼灸治療は患者の症状や体質に合わせて治療方針を柔軟に調整できます。これにより、患者一人ひとりに最適な治療が可能になり、より効果的なリハビリが期待できます。

4. 痛みと不快感・自律神経症状の軽減

鍼灸治療は痛みを軽減する効果があり、脳梗塞後のリハビリで生じる筋肉のこわばりや痛みを和らげることができます。これにより、患者がリハビリを継続しやすくなります。薬で効果を出しずらい不眠や不安感、胃の痛みや下痢などの自律神経症状にも対応することが可能です。

5. 血行促進と機能回復の支援

鍼灸は血行を促進し、脳への酸素や栄養供給を改善することで、神経機能の回復を助けます。これにより、麻痺や筋力低下の改善が期待できます。

6. 精神的・感情的なサポート

脳梗塞後の患者は、ストレスや不安、うつ状態を抱えることが多いです。鍼灸治療はリラクゼーション効果があり、精神的・感情的なサポートを提供することで、心理的な負担を軽減します。

7. 総合的なリハビリ効果の向上

鍼灸は、物理療法や作業療法などの他のリハビリ療法と併用することで、総合的なリハビリ効果を高めることができます。鍼灸がもたらすリラックス効果や痛みの軽減により、他のリハビリ治療をより効果的に受けることができます。

8. 継続的なケアが可能

鍼灸は長期的に行える治療法であり、脳梗塞後のリハビリ期間が長引く場合でも継続的なサポートを提供できます。これにより、患者のモチベーションを維持し、リハビリの効果を持続させることができます。

これらのメリットにより、鍼灸治療は脳梗塞後のリハビリにおいて、患者の身体的および精神的な健康を支える重要な手段となり得ます。