ALS(筋萎縮性側索硬化症)の方への鍼灸治療
どのような病気か?どのようなことが鍼灸治療でできるのか?解説します。ALSをお持ちの方で痛みや自律神経症状、嚥下障害などでお困りの方は一度弊所までご相談ください。
病気の概要
主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。
症状
ALSは発症様式により、(1)上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す上肢型(古典型)、(2)構音障害、嚥下障害といった球麻痺が主体となる球型(進行性球麻痺)、(3)下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る下肢型(偽多発神経炎型)の3型に分けられることがある。これ以外にも、呼吸筋麻痺が初期から前景となる例や体幹筋障害が主体となる例、認知症を伴う例もあり多様性がみられる。
(公益財団法人 難病情報センターより)
段階的な症状
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の進行症状は、一般的に次のように医学的に分類されます。この分類は、ALSの進行に伴う筋力低下や機能障害を中心にした段階的な進行を示しています。ALSの進行は個人差があるため、すべての患者にこれらの段階が当てはまるわけではありません。
初期段階(Stage 1: Early Stage)
症状の特徴 :
初期の筋力低下が特定の筋群に限定される。最初は片側の手や足の筋力低下、筋肉の萎縮が見られることが多い。
機能的影響 :
日常生活での軽微な障害(例:物を持つのが難しい、階段を上るのに時間がかかるなど)。
臨床的所見 :
神経学的検査で筋力低下が観察されるが、一般的には重大な機能障害はまだない。反射異常(例:深部腱反射の亢進)が見られることがある。
中期段階(Stage 2: Middle Stage)
症状の特徴 :
症状が左右の両方に広がり、複数の筋群に及ぶようになる。上肢や下肢の筋力低下が進行し、筋肉の硬直や痙縮が現れることがある。
機能的影響 :
動作が徐々に困難になる。歩行の困難さが増し、手の巧緻性が低下する。自立した生活が難しくなる可能性がある。
臨床的所見 :
筋萎縮がより明確になり、筋力低下と共に筋緊張異常(痙性)や筋肉のけいれんが見られる。嚥下困難や言語障害(構音障害)が出始めることもある。
後期段階(Stage 3: Late Stage)
症状の特徴 :
全身の筋力低下と筋萎縮が顕著になり、呼吸筋も含む全身の筋肉が影響を受ける。食べ物を飲み込むのが非常に困難になり、誤嚥のリスクが高くなる。
機能的影響 :
日常生活の全ての動作に介助が必要となる。歩行や立ち上がることがほとんど不可能になる。多くの患者は車椅子を使用する。
臨床的所見 :
筋力低下が著しく、四肢の筋肉や軀幹筋、呼吸筋が広範囲にわたって萎縮し、痙縮や不随意運動が増加する。呼吸困難が現れる場合があり、呼吸補助が必要になることが多い。
4. 末期段階(Stage 4: End Stage)
症状の特徴 :
全身の筋肉が著しく萎縮し、運動能力が完全に失われる。呼吸筋の麻痺により、呼吸不全が生じる。
機能的影響 :
ほぼ全ての身体機能が失われ、自立した生活は不可能となる。人工呼吸器の使用が必要になる場合が多い。
臨床的所見 :
筋力の完全な喪失、呼吸機能の著しい低下が見られる。栄養摂取や水分補給のために経管栄養が必要となることが多い。
医学的分類のポイント
ALSの進行は段階的ですが、個々の患者で進行速度や症状の出現は異なります。また、ALSは下位運動ニューロン(筋肉への信号を伝える神経細胞)と上位運動ニューロン(脳から脊髄への信号を伝える神経細胞)の両方に影響を与えるため、症状は運動機能の喪失だけでなく、反射異常や痙縮などの上位運動ニューロンの症状も含まれます。
鍼灸治療のメリットは?
ALSそのものの進行を抑える等のエビデンスは不明ですが症状緩和に効果があります。鍼灸は薬を使わない治療法であることが魅力です。以下に具体例を挙げますが他にも様々なメリットを提供できますのでお困りの方は個別にご相談ください。
1.痛みの軽減
ALSの進行に伴い、筋肉の硬直や痙縮、または筋肉のけいれんによって痛みが生じることがあります。鍼灸治療は、これらの痛みを軽減するのに役立つ可能性があります。特に、神経伝達物質の調整を通じて痛みを和らげる効果が期待できます。
2,筋肉の痙攣と硬直の緩和
ALS患者は筋肉の痙攣や硬直に苦しむことがよくあります。鍼灸は筋肉の緊張を緩和し、柔軟性を改善することができるため、患者の快適さを向上させる可能性があります。
3,リラックス効果とストレス軽減
ALSのような進行性疾患の診断は心理的ストレスを引き起こします。鍼灸治療はリラクゼーションを促進し、不安感やストレスの軽減に寄与する可能性があります。患者がリラックスすると、全体的な生活の質が向上することがあります。
4,睡眠の改善
痛みや筋肉の不快感、ストレス、不安が睡眠の質に影響を与えることがあります。鍼灸はこれらの症状を緩和することで、患者の睡眠の質を改善することが期待されます。
5,疲労感の管理
鍼灸治療はエネルギーレベルを調整し、慢性的な疲労感を軽減するのに役立つことがあります。これは、ALS患者が日常生活をよりよく管理できるようにするために有益です。
6,唾液分泌(嚥下)の調整
ALS患者は時折、過剰な唾液分泌や口渇を経験します。鍼灸は唾液の分泌を調整するのに役立つ場合があります。*ALS患者が対象ではありませんが東北大学が鍼灸治療と嚥下の関係を研究しています。