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イヴァン・イリイチが描いた「脱病院化社会」とは?要約と医療との上手な付き合い方を考える 。

今日はちょっと硬いテーマですが、現代の医療を考える上でとても大切な話をしたいと思います。ご存じの方もいるかもしれませんが、イヴァン・イリイチという思想家が1976年に発表した『Medical Nemesis』という本が、いま改めて注目されています。彼は、現代医療が抱える課題に真っ向から向き合い、「脱病院化社会」という大胆な提案をしました。

私たち鍼灸師にとっても、これはとても興味深いテーマです。なぜなら、イリイチの考え方は「どうやって健康を守り、自分の力で元気に生きていくか?」を見つめ直すヒントを与えてくれるからです。今回は、イリイチが主張した内容や、その時代背景、そして鍼灸や代替医療にどんな影響を与えたのかをわかりやすく解説します。

1. 1970年代ってどんな時代?

1970年代は、いまの私たちに大きな影響を与えた時代です。例えば、反戦運動や環境保護運動が盛んになり、世の中の人たちが「このままの社会で本当にいいの?」と考え始めた頃なんです。医療も同じでした。

この頃、医療技術はすごいスピードで発展していましたが、その一方で「医療に頼りすぎると、かえって健康を損なうことがあるんじゃないか?」という疑問も生まれてきました。イヴァン・イリイチはその疑問に鋭く切り込んだ人です。

彼が発表した『Medical Nemesis』(邦題、脱病院化社会)では、こんなことが書かれています。

「病院や医療がすべてを解決してくれると思い込むのは危険だ。むしろ、自分の体と向き合い、自然な力を活かすことが大切だ」と。

2. イヴァン・イリイチの提案:「脱病院化社会」って?

イリイチが提唱した「脱病院化社会」という言葉を聞くと、「病院に行くなってこと?」と思われるかもしれませんが、そんな極端な話ではありません。

イリイチが言いたかったのは、「もっと自分の体と向き合い、健康を自分で管理できる力を取り戻そう」ということなんです。彼はこう言っています。「病院や薬に頼りすぎると、健康の管理がすべて専門家任せになり、自分で自分をケアする力を失ってしまう。でも、本当の健康は自分の生活の中にあるんだ。」これって、私たち鍼灸師が普段からお伝えしている「生活習慣の見直しや自然治癒力を大切にしよう」という考え方にも通じますよね。

少し長いですが以下に脱病院化社会の要約文を掲載します。詳しく知りたい方はご覧になってください。そうでない方は読み飛ばしていただいて結構です。

序論

- 現代医療への批判と脱病院化の必要性 -

背景と問題意識

20世紀後半、医学の科学的発展とともに、病院を中心とした医療体制が確立された。しかし、この体制は専門知識や技術の進歩と引き換えに、個々人の自律性を制限し、医療そのものが「自己破壊的」な側面(=医原性:iatrogenesis)を内包するという矛盾を孕んでいるとイリイチは指摘する。

目的と展望

本書(または論考)の序論では、医療が社会全体に及ぼす影響と、その中で生じる不利益(過剰介入、依存関係、権力の集中など)を明示し、病院中心の医療制度から脱却し、より自律的かつ共生的な健康管理体制を構築する必要性を論じる。

第1章:医学の近代化と病院の台頭

- 歴史的展開と制度化のプロセス -

伝統医療から近代医療への転換

中世や伝統的な地域医療・民間療法と比較して、近代医療は科学的合理性を背景に発展してきた。病院という制度が、専門職による管理・統制の下で急速に台頭した経緯を概観する。

制度化の利点と弊害

一方で、病院は効率的な治療や救命に貢献した反面、標準化や画一性、そして患者個人の主体性の抑圧といった問題も引き起こしている。イリイチは、こうした医療の制度化が、医療技術への無批判な依存を助長する過程を批判的に分析する。

第2章:病院中心主義の問題と医原性の概念

- 医療の副作用としての「医原性」の展開 -

医原性の多面的考察

イリイチは、医療が介入するほどに新たな問題(身体的、精神的、社会的な害)を引き起こす現象を「医原性」と呼ぶ。ここでは、

臨床的医原性: 不必要な検査や治療が患者に実害をもたらす

社会的医原性: 医療制度による依存や疎外、権力関係の再生産

文化的医原性: 健康に対する価値観や生活様式が、医療機関主導で変容してしまう

という3層的な側面から検討する。

過剰介入とその帰結

医学の進歩が必ずしも「健康の拡大」につながらず、むしろ過度な介入が新たな疾病や社会問題を引き起こすメカニズムについて、実例や統計的傾向を踏まえながら論証する。

第3章:病院化社会の社会的・文化的影響

- 専門化・制度化がもたらす疎外と共生の欠如 -

個人と医療制度の関係性

病院中心の医療体制では、患者はしばしば受動的な対象となり、医療専門家との間に情報の非対称性が生じる。これにより、患者自身が自らの健康に関する判断を下しにくくなり、結果として自律性が損なわれる。

社会構造・文化への影響

医療の専門化は、社会全体における福祉、教育、地域コミュニティとの連携を断絶させる傾向にある。病院が権威と資源を集中することで、地域固有の知恵や相互扶助の精神が薄れ、結果的に社会全体の「共生」や「連帯」が阻害される様相を示す。

第4章:脱病院化の概念と実践的アプローチ

- 医療再構築のための具体的代替案 -

脱病院化社会のビジョン

イリイチは、医療技術を「共生的道具(convivial tools)」として再評価し、個人や地域が自らの健康を管理できる仕組みの構築を提唱する。これは、専門家主導の医療から、市民が主体となる自助・相互扶助型の健康管理体制への転換を意味する。

具体的アプローチ

自己管理・予防医療: 健康教育の充実と、生活習慣の見直しを通じた疾病予防の推進

地域共同体の役割強化: 地域レベルでの健康支援ネットワークの構築と、情報共有・協働の仕組み

技術と伝統の融合: 最新医療技術を盲目的に受け入れるのではなく、伝統的な知識や地域固有の実践と調和させる方法論の模索

これらを通して、病院に依存しない、柔軟かつ多元的な医療体制の実現を図る。

第5章:社会政策と市民の役割の再定義

- 制度改革と民主的医療の実現 -

医療制度の権力構造の転換

脱病院化社会の実現には、既存の医療制度が維持している中央集権的・官僚的な権力構造を抜本的に転換する必要がある。国家や自治体、医療機関が一方的に決定するのではなく、市民参加型の政策形成が求められる。

市民主体の健康政策

市民が自身の健康に関する意思決定に参加できる仕組みを構築するため、地域コミュニティや市民団体の役割強化、さらには分権的な医療運営モデルの導入が提唱される。これにより、医療の民主化と、より多様な価値観に基づく健康維持が可能になる。

第6章:脱病院化社会への展望と今後の課題

- ビジョンの実現に向けた挑戦と可能性 -

実現可能性とその阻害要因

脱病院化社会の構想は、理論的には魅力的である一方、現実の政治・経済・文化の中では多くの障壁が存在する。ここでは、既存の医療産業の利権、医療従事者の専門性への依存、市民の知識や意識の不足など、実践に向けた障害要因が検証される。

展望と未来への提言

それにもかかわらず、持続可能で自律的な健康社会の構築は、医療の自己破壊的側面に対する必要な解答であるとイリイチは主張する。最終的には、個人の主体性を尊重し、地域・社会全体が連帯して健康を創造するビジョンが、長期的には現代医療の限界を克服する可能性を秘めていると論じ、今後の研究・政策課題としての方向性を示す。

総括

本要約は、イヴァン・イリイチが提唱する「脱病院化社会」の思想を、以下のような流れで整理している。

序論では、現代医療の抱える矛盾(過剰介入、依存、医原性)を背景に、病院中心主義の問題点を提示。

第1章で、歴史的な医療の近代化と病院の制度的台頭を分析し、その過程で失われた個人の自律性に着目。

第2章では、医原性の概念を多面的(臨床・社会・文化)に考察し、医療介入の副作用を詳細に論証。

第3章で、病院中心の医療体制が個人・社会・文化に及ぼす負の影響を明らかにする。

第4章では、脱病院化の実現に向けた具体的なアプローチ(自己管理、地域共同体、技術と伝統の融合)を提示。

第5章で、医療制度の権力構造転換と市民参加型の健康政策の必要性を論じ、

第6章で、ビジョン実現への展望と今後の課題、さらにより人間中心の共生的健康社会への道筋を示す。

このように、イリイチは単に医療制度への批判に留まらず、根本的な社会変革の視点から「脱病院化社会」の可能性とそのための具体策を提示している。現代医療のあり方やその未来を再考する上で、これらの議論は極めて示唆に富み、学術的・実践的な議論の素材として十分な価値を持っています。

3. どうして鍼灸や代替医療が注目されたの?

イリイチが「医療のあり方を見直そう」と提案した頃、ちょうど東洋医学や自然療法が再評価されるようになってきました。

当時、西洋医学はどんどん高度な技術を追求する方向に進んでいましたが、その反動で「もっと体全体を見てくれる治療が必要だ」という声が増えてきたんです。鍼灸や漢方、ヨガ、瞑想といった方法が見直され始めたのもその流れです。

鍼灸は特に、「体のバランスを整えて自然治癒力を高める」という考え方が、イリイチの思想とも深くつながっています。現代医療の進歩を否定するのではなく、「時には自然なアプローチも取り入れてみよう」という動きが世界中で広がったんですね。

4. 私たちが学べること:「健康との向き合い方」

では、イリイチの「脱病院化社会」から、私たちはどんなヒントを得られるのでしょう?例えば、こんなことが考えられます。

病気の前に、自分の生活を見直してみる

鍼灸治療でも、肩こりや腰痛が慢性化する前に、普段の姿勢や睡眠を見直すことが大切です。生活習慣を少し変えるだけで、体が楽になることも多いですよ。

自分の体ともっと対話する

病院や薬に頼り切る前に、自分の体の声に耳を傾けてみましょう。鍼灸は「未病を治す」=病気になる前の段階で体の不調を整えることを得意としています。日々の小さな変化に気づくことが健康の第一歩です。

地域の力や家族・友人とのつながりを大切にする

イリイチは「地域コミュニティのつながりが健康を守る力になる」とも語っています。私たちの鍼灸院も、地域の皆さんと一緒に健康を守る場でありたいと思っています。気軽に相談できる存在が近くにいることが、心の健康にもつながりますよね。

5. まとめ:現代医療と自然療法のバランスを見つけよう

イヴァン・イリイチが『Medical Nemesis』を発表してから約50年が経ちましたが、彼が提起した「医療との上手な付き合い方」のテーマは、いまでも色褪せることはありません。むしろ、現代の医療技術がますます進化する中で、自分自身の健康にもっと主体的に関わることが大切になっていると感じます。

もちろん、病院や薬が必要な時もありますが、鍼灸や生活習慣の見直しといった自然なアプローチも併せて取り入れることで、より良い健康が手に入るのではないでしょうか?

田無北口鍼灸院では、皆さんが自分の体と上手に付き合いながら、自然治癒力を引き出すお手伝いをしています。もし何か体の不調が気になったら、気軽にご相談ください。

フーコーの『臨床医学の誕生』が示した現代医療の成り立ちと鍼灸への影響

はじめに

フーコーの『臨床医学の誕生』は、医学とその社会的・文化的背景を深く掘り下げた歴史的な名著です。この本は、医学がどのようにして近代的な形態を取るに至ったのか、特に臨床医学の誕生に焦点を当てています。その中で、フーコーは医学が単なる治療技術にとどまらず、社会的、政治的な権力と密接に結びついていることを指摘しました。本記事では、フーコーの『臨床医学の誕生』がどのようにして現代医学を理解する上で重要な指針を提供しているのか、そしてその思想が鍼灸や代替医療にどのような影響を与えたのかを解説します。

フーコーの思想のバックボーンと時代背景

『臨床医学の誕生』が出版された1963年、フーコーは既にフランスで重要な知識人として名を馳せていました。その思想は、構造主義やポスト構造主義といった現代哲学の流れを受け継ぎつつ、社会の権力構造に深い関心を寄せていました。フーコーは「知識」と「権力」の関係について多くの著作で言及し、特に医学を通して権力がどのように個人の身体を管理してきたのかを探求しました。

近代社会と権力

フーコーの思想において、「権力」は単なる政治的な力や支配者の強制力ではなく、社会全体に浸透する無形の力として描かれます。この権力は、社会のあらゆるレベル、特に日常的な医療や教育、刑罰の場面にまで影響を及ぼし、個々の人々に無意識的に作用します。『臨床医学の誕生』では、近代医学がこのような権力構造とどのように結びついているかを明らかにし、医学が個々の身体を管理する「技術」として発展していった過程を探求しています。

医学の進化と社会の変化

フーコーの分析は、18世紀の医学の進化を考察することで、近代医学がどのようにして「病気」と「患者」を社会的に管理するシステムに変わったのかを描き出しました。彼は、病院という制度がどのようにして近代的な診断と治療の枠組みを形作ったのかに焦点を当て、その背後にある社会的、政治的な力関係を暴きました。

『臨床医学の誕生』の各章の要約

『臨床医学の誕生』は、医学の進化とその社会的背景を詳細に分析しています。ここでは、各章ごとの要点を簡潔にまとめ、フーコーがどのようにして医学と権力の関係を説明したかを紹介します。

第1章: 医学の「視覚」とその誕生

フーコーは、この章で医学の「視覚」が近代医学の誕生にどれほど重要であったかを論じています。18世紀以前、医学は理論的な知識や患者の言葉に頼ることが多かったのですが、近代医学は患者を病院で視覚的に観察することで成り立つようになりました。この「視覚の転換」が、医学を権力と知識の体系へと変化させたとフーコーは指摘します。

第2章: 病院と患者の「分類」

病院は患者を「分類」し、病気を特定のカテゴリーに分けることによって、治療を標準化していきました。この章では、フーコーが病院内での患者の分類と、それが社会的にどのように機能したかを分析しています。医学は、患者を個々の症例として扱うのではなく、より広範な「タイプ」として管理するようになったのです。

第3章: 医学の「表現」とその政治性

この章では、医学がどのように「表現」されるか、特に言語と診断書の重要性を考察します。診断書や患者の記録は、病院内での医師と患者の関係を管理し、また社会における権力の行使を助けるツールとして機能します。

第4章: 医学の「理論」と実践

フーコーは、理論と実践がどのように結びついたのかを論じています。臨床医学は、理論的な枠組みと実際の治療法を統合することで、患者の身体を「科学的に」理解する方法を確立しました。

第5章: 臨床医学の誕生

最終章では、臨床医学がどのように誕生したのか、特に病気の診断と治療がどのようにして体系化され、医学の科学的な基盤が形成されたのかを描きます。フーコーは、近代医学が単なる治療行為を超えて、患者の身体を科学的に分析するシステムへと変わったことを強調します。

フーコーの思想が現代医学に与えた影響

『臨床医学の誕生』の出版は、現代医学の理解に大きな影響を与えました。医学は単なる病気の治療にとどまらず、社会的な力関係を反映する制度として捉えられるようになりました。この視点から、現代医学では患者中心の医療が重視され、医療の倫理や人権の問題が重要なテーマとなっています。

また、フーコーの影響を受けて、医学界では「証拠に基づく医療(EBM)」という新しいアプローチが登場し、診療行為における科学的根拠がより一層重要視されるようになりました。

鍼灸と代替医療に与えた影響

1. 近代医学と代替医療の対立と再評価

フーコーの『臨床医学の誕生』は、近代医学の確立が医学という「権力」の行使の一形態であることを明確に示しています。この分析は、代替医療、特に鍼灸のような非西洋的な医療体系に対する評価に深く影響を与えました。近代医学は、病気の診断と治療において、しばしば一貫した科学的根拠や技術的な手法を求め、その「科学性」が権威の源泉となります。しかし、フーコーが指摘したように、この医学的知識体系が確立される過程で、患者の身体に対する管理が、単なる病気治療にとどまらず、社会的な規律や制御の手段として機能してきたことが示唆されます。

そのため、鍼灸や他の代替医療は、初めて近代西洋医学と出会った際に、しばしば「非科学的」「迷信的」として評価され、医療の主流から外れた存在として扱われることが多かったのです。この構造的な対立は、単に治療技術の違いにとどまらず、医学が如何にして社会の権力と結びつき、個人の身体を管理してきたかという点に根ざしていると言えます。

2. 代替医療の「非主流性」とその意味

フーコーの分析は、代替医療の「非主流性」に対する新たな視点を提供しました。彼が描いた近代医学の歴史的過程において、医療がどのように社会の規範と結びつき、身体を分類し管理する道具として発展したのかを理解することは、代替医療の社会的役割を再評価する手がかりとなります。特に鍼灸は、長い歴史を持ちながらも、近代医学と対照的に、身体のエネルギーやバランス、精神と身体の統合的な健康を重視します。この視点は、身体を「システム」や「症状の集合体」として捉える近代医学とは対照的であり、医学の権威が強化される一方で、代替医療はその枠組みの外に押しやられました。

しかし、フーコーの「権力と知識」という視点から見ると、代替医療、特に鍼灸のような治療法は、その「非主流性」にこそ価値があるとも言えます。近代医学が築いた「規範」に対する反発として、鍼灸は患者中心のアプローチやホリスティックな治療法を提供し、個人の身体に対する独自の理解とアプローチを示しています。このような視点から、鍼灸は単なる治療技術にとどまらず、身体と精神の調和を重視する「哲学的アプローチ」として現代社会において再評価されることになったのです。

3. 近代医学の「科学性」に対する疑問と代替医療の台頭

フーコーが描いたように、近代医学の進化は「科学的根拠」を基盤にした診療技術に支えられてきました。この「科学性」は、医学の権威を確立し、医師が患者に対して一種の権力を行使する基盤となりました。しかし、20世紀後半から、特に1970年代以降、近代医学の科学性に対する疑問が強まりました。例えば、薬物治療や外科手術の効果に関する副作用や限界が明らかになり、これらが医療技術としての万能性に疑問を投げかけるようになったのです。

この流れの中で、鍼灸をはじめとする代替医療は、より「自然」や「身体の自己治癒力」に根ざした治療法として注目を集めるようになりました。代替医療は、単に病気を治す手段ではなく、患者の「生活全体」や「心身のバランス」を重視するアプローチとして、現代人の健康観に対する新しい視点を提供しました。ここでの焦点は、「症状の治療」だけでなく、「病気を予防すること」や「健康を維持すること」への関心の高まりにも関連しています。

4. 鍼灸と代替医療の社会的受容

フーコーの思想に基づき、代替医療の社会的受容には、医学における「権力」構造と社会的変動が密接に関連していることが分かります。近代医学が主流となり、患者の身体に対する管理が強化される中で、代替医療はしばしば「非科学的」として排除されることがありました。しかし、現代においては、鍼灸をはじめとする代替医療が一定の社会的受容を得るようになっています。

特に、患者中心の医療が強調され、患者自身が治療に対して積極的に関与することが求められる中で、鍼灸のような身体全体を見据えた治療法は、現代医学と共存しつつあると言えるでしょう。また、鍼灸に関する科学的研究が進み、その有効性が一部で証明されつつあることで、代替医療は単なる「代替的」な選択肢にとどまらず、医療の補完的な役割を果たす手段として認識されつつあります。

5. 代替医療の未来と鍼灸の役割

フーコーの『臨床医学の誕生』が提示した医学の「権力」と「知識」の関係を背景に、代替医療、特に鍼灸の未来には大きな可能性があります。現代社会において、健康やウェルビーイングに対する意識が高まり、身体的な治療だけでなく、精神的なケアや予防医学が重要視されています。この文脈において、鍼灸はそのエネルギー的なアプローチを活かして、患者に全人的な治療を提供することができる独自の立場を持っています。

さらに、医学と代替医療の統合が進む中で、鍼灸は「補完医療」としての役割を果たし、現代医学と並行して使用されるケースが増えてきています。鍼灸は、特に慢性的な痛みや自律神経の不調、ストレス関連の疾患に対して有効性を示すことが多く、現代社会で多くの人々に求められる治療法となってきています。

結論

フーコーの『臨床医学の誕生』は、近代医学とその社会的・政治的背景を深く理解するための重要な手がかりを提供します。鍼灸をはじめとする代替医療は、近代医学の枠を超えた新しいアプローチとして、現代社会において再評価されています。身体と心のバランスを大切にする鍼灸のような治療法は、現代人のニーズに応える重要な手段となり、今後も健康管理において重要な役割を果たし続けることでしょう。

コロナ後遺症とコロナワクチン後遺症の実態:症状、治療法、そして鍼灸の可能性

新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的なパンデミックが始まってから数年が経過し、多くの人々が感染を経験しました。その中で、症状が回復した後も長期間にわたり様々な健康問題を抱える「コロナ後遺症」や、ワクチン接種後に発生する「コロナワクチン後遺症」という新たな問題が浮かび上がっています。これらの後遺症に対する治療法はまだ確立されていませんが、患者にとっては症状が長期化することがあり、改善に向けた様々なアプローチが模索されています。

特に、伝統医療のひとつである「鍼灸」が、コロナ後遺症やワクチン後遺症に対して有効である可能性が指摘されています。本記事では、コロナ後遺症とワクチン後遺症の症状や治療法、そして鍼灸治療がどのように役立つのかについて詳しく探ります。

1. コロナ後遺症とコロナワクチン後遺症とは?

コロナ後遺症(ロングコビッド)は、新型コロナウイルスに感染した後、回復したにもかかわらず、長期間にわたって症状が続く状態を指します。感染から数ヶ月経過しても、体調不良や体の不調が改善せず、生活に支障をきたす場合があります。

一方、コロナワクチン後遺症は、COVID-19ワクチン接種後に現れる、長期的な副反応を指します。ワクチン接種後に短期間の副作用(発熱や痛み、倦怠感など)は一般的ですが、これらの症状が長期化することがあり、ワクチン接種後数週間から数ヶ月にわたり体調不良が続くことがあります。

これらの後遺症は、ウイルス感染やワクチンによって免疫系が反応することによって引き起こされると考えられており、現時点では特効薬はありません。そのため、症状の管理が治療の中心となっています。

2. コロナ後遺症の症状

コロナ後遺症は、感染した人の約10〜30%に発症するとされています。その症状は非常に多岐にわたり、軽いものから重いものまでさまざまです。主な症状は以下の通りです。

疲労感:回復しても強い倦怠感が続き、十分な睡眠を取っても疲れが取れない。

呼吸困難:軽度の運動でも息切れを感じることがあり、肺機能に関わる問題が残ることがある。

神経系の症状:頭痛、脳霧(記憶障害や集中力の低下)、うつ状態、睡眠障害などが見られる。

筋肉痛・関節痛:筋肉や関節に持続的な痛みを感じることがある。

嗅覚・味覚の異常:嗅覚や味覚が失われることがある。

消化器系の不調:食欲不振や下痢、便秘などの消化不良。

心臓への影響:動悸や胸の痛み、心拍数の増加が見られることがある。

これらの症状が日常生活に大きな影響を与えるため、治療方法が急務となっています。

3. コロナワクチン後遺症の症状

コロナワクチン後遺症は、ワクチン接種後に現れる長期的な副作用です。ワクチン接種後には通常、短期間で回復する副反応が見られますが、稀に以下のような症状が長期間続くことがあります。

疲労感:ワクチン接種後に現れる倦怠感が持続することがある。

頭痛:接種後に発生する頭痛が長期間続くことがある。

筋肉痛・関節痛:全身に筋肉や関節の痛みが広がり、回復しないことがある。

発熱:接種後の発熱が数週間続く場合がある。

神経系の問題:記憶障害や脳霧、神経痛などが発生することがある。

アレルギー反応:皮膚の発疹や呼吸困難が見られることがある。

これらの症状はワクチンによる免疫反応が長引くことによって引き起こされる可能性があり、現在も治療法が研究されています。

4. 現在の治療法と鍼灸の可能性

現在、コロナ後遺症やワクチン後遺症に対する確立された治療法は存在していません。治療は主に症状の管理を中心に行われ、以下のような方法が採られています。

薬物療法:痛み止め、抗うつ薬、抗不安薬、抗炎症薬などが処方されることがあります。

リハビリテーション:筋力低下や呼吸困難がある場合、リハビリテーションが推奨されます。

心理的支援:うつや不安がある場合、認知行動療法(CBT)などの心理療法が有効です。

栄養管理:免疫力を高めるために、バランスの取れた食事と生活習慣の改善が推奨されます。

その中で、近年注目されているのが鍼灸治療です。鍼灸は中医学に基づく伝統的な治療法で、体内のエネルギーの流れを整え、自然治癒力を高めることを目的としています。コロナ後遺症やワクチン後遺症に対して、鍼灸がどのように有効であると考えられているのか、以下のようなメカニズムが挙げられます。

5. 鍼灸の効果

免疫調整作用:鍼灸は免疫系に働きかけ、炎症を抑える可能性があるとされています。特定の経穴(ツボ)に鍼を刺すことで、免疫細胞の活動を活性化し、体内の炎症を抑えることができると考えられています。

神経系への影響:鍼灸は、神経系にも効果があるとされ、脳内の神経伝達物質(エンドルフィンやセロトニンなど)の分泌を促し、痛みを軽減したり、脳霧や集中力の低下を改善することが期待されています。

血行促進:鍼灸は血液の流れを促進し、筋肉の緊張をほぐし、酸素や栄養素をより効果的に細胞に届けることで、疲労感や痛みの改善に寄与します。

自律神経の調整:鍼灸は自律神経を整え、交感神経と副交感神経のバランスを調整します。これにより、ストレスや不安が軽減され、体調が改善する可能性があります。

鍼灸の有効性を示す研究

鍼灸がコロナ後遺症やワクチン後遺症に有効であることを示す研究は現在も進行中ですが、慢性疲労症候群や神経系の障害に対する鍼灸の有効性が示された研究はあります。例えば、慢性疲労症候群における鍼灸治療の効果を示す研究や、神経痛に対する効果が確認された研究があります。

6. まとめ

コロナ後遺症やコロナワクチン後遺症に対する治療は現在も進行中であり、特効薬は存在していません。しかし、症状の管理やリハビリテーション、心理的支援を通じて、患者の生活の質を向上させることが可能です。また、鍼灸治療は、免疫調整、神経系のサポート、血行促進などを通じて、コロナ後遺症やワクチン後遺症の症状改善に寄与する可能性があります。今後さらに多くの研究が進められ、鍼灸がこれらの後遺症に対する有効な治療法となることが期待されています。

参考

・ Acupuncture in Multidisciplinary Treatment for Post-COVID-19 Syndrome

・ Acupuncture in acute COVID-19 treatment: A review of clinical evidence

起立性調整障害(OD)・フクロウ型体質(フクロウ型症候群)と鍼灸治療について

起立性調整障害(OD)とは?

起立性調整障害とはをODと略されますが英語での正式名称はOrthostatic Dysregulationと言います。好発年齢は小学生から中学生で、男児より女児の発症が多い傾向にあります。わかりやすく一言でいえば「思春期の自律神経の不調で朝起きられなくなってしまう病気」という感じでしょうか。

一般社団法人 日本小児心身医学会のホームページには以下のような概要が書かれています。

・ たちくらみ、失神、朝起き不良、倦怠感、動悸、頭痛などの症状を伴い、思春期に好発する自律神経機能不全の一つです。

・ 過去には思春期の一時的な生理的変化であり身体的、社会的に予後は良いとされていましたが、近年の研究によって重症ODでは自律神経による循環調節(とくに上半身、脳への血流低下)が障害され日常生活が著しく損なわれ、長期に及ぶ不登校状態やひきこもりを起こし、学校生活やその後の社会復帰に大きな支障となることが明らかになりました。

・ 発症の早期から重症度に応じた適切な治療と家庭生活や学校生活における環境調整を行い、適正な対応を行うことが不可欠です。(以上、引用)

フクロウ型体質とは?

漢方医学では夜に活発になり朝起きられない体質のことを「フクロウ型体質」と呼びます。起立性調整障害に似ている部分が多いのです。このような体質の方には漢方薬の苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) が有効な場合がある、と久留米大学医療センター・先進漢方治療センター教授の惠紙英昭先生が第67回日本東洋医学会学術集会で発表しました。あくまでケースバイケースですが補完的な治療として漢方が有効かもしれません。

起立性調整障害(OD)の注意点は?鍼灸治療は有効?

(1)まずは自己判断でなく病気かどうかの専門家判断を。

不登校の症状と似ているため精神的な問題なのか?身体の不調なのか?判断がつきづらいです。病気かどうか?判断するには診断基準があります。血液検査や心電図検査などを行いほかの病気の可能性がないか?確認されたうえで医師が診断を行います。岡山県教育委員会は対応マニュアルをまとめていますがまずは専門家や医師に相談するとよいと思います。参考までにチェックリストを紹介します。11項目のうち3つ以上が当てはまれば新起立試験というテストが実施されます。

・ 立ち眩み、あるいはめまいを起こしやすい。

・ 立ってると気持ち悪くなる、ひどくなると倒れる。

・ 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる。

・ 少し動くと動機あるいは息切れがする。

・ 朝なかなか起きられず午前中に調子が悪い。

・ 顔色が青白い。

・ 食欲不振。

・ 臍疝痛を時々訴える。(臍のまわりが時々痛い)

・ 倦怠あるいは疲れやすい。

・ 頭痛がある。

・ 乗り物に酔いやすい。

(2)注意点=代替医療に頼りすぎないこと。が、鍼灸治療は有効ではないか?

起立性調整障害と診断されると医師による生活指導や投薬治療が行われます。しかし特効薬がある訳ではなく、これといった決め手になるような治療法もないためになかなかよくならず困ってしまい代替医療に頼る方も多いのです。そのような背景からインターネット上で過剰に代替医療の効果を喧伝する様子も散見されます。しかしながら起立性調整障害の代替医療に対してはほとんどエビデンスがありません。前述の一般社団法人 日本小児心身医学会のホームページにも整骨や整体、サプリメントなどには明確なエビデンスがないと注意喚起を行っています。

鍼灸治療に関しても改善したという報告はありますがエビデンスと呼べるほどの根拠はありません。ですので期待しすぎることなく、また病院に行くのをやめて「代替医療や鍼灸にすべてをかける」といったスタンスで治療に臨むことはあまりお勧めしません。しかしながら私の実感としては鍼灸施術をやることで体調不良が改善したという声も多くやればよくなるという実感があります。

田無北口鍼灸院では漢方に精通している医師を紹介し連携しながら治療に当たり改善した実績もございます。その際は医師が漢方薬+標準治療の薬を処方し、また小児専門の医療機関を紹介し弊所では定期的に鍼灸で自律神経のバランスを整えました。最善の方法を提案しますのでお困りの方はぜひ一度ご相談ください。

(3)施術代(中学生の場合)

初回:7150円 2回目以降:4950円

 

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めまい・耳鳴りに対する鍼灸治療の有効性。適切な病院へのかかり方。

めまいや耳鳴りは、日常生活に大きな支障をきたす症状です。仕事や家庭での活動が制限され、精神的にも疲れてしまうことがあります。病院での薬物治療がうまくいかず、改善が見込めない場合、鍼灸治療が有効な選択肢となることがあります。病院(耳鼻科・脳神経内科等)での治療や薬ではめまいや耳鳴りの症状が解決しない理由はいくつかあります。

原因の多様性: めまいや耳鳴りは、さまざまな原因によって引き起こされます。例えば、内耳の問題(メニエール病や前庭神経炎)、血圧や循環の問題、ストレスや精神的な問題、耳の感染症、さらには耳の中の物理的な障害などが原因となる場合があります。薬は一部の原因には効果がありますが、原因が異なると薬だけでは十分に改善しないことがあります。

症状の慢性化: もしめまいや耳鳴りが慢性的になっている場合、薬物治療だけでは効果が限定的なことが多いです。薬は一時的な症状の緩和に役立つことがあっても、根本的な原因の解決には時間がかかることもあります。

効果が個人差に依存: 薬が全ての人に効果的であるとは限りません。薬の効果は個人の体質や病状に依存するため、ある人には効いても、別の人には効かないことがあります。

診断が不確かな場合: めまいや耳鳴りの症状が複数の原因が絡んでいることも多く、適切な診断がつかないと、最も効果的な治療が行われない可能性があります。例えば、耳の問題だけでなく、脳や神経系、心身のストレスなど他の要因も考慮する必要がある場合があります。

非薬物療法の重要性: めまいや耳鳴りには、薬物治療だけでなく、理学療法、ストレス管理、生活習慣の改善など非薬物的なアプローチが有効な場合もあります。薬だけでは解決しにくい場合には、総合的な治療が必要になることもあります。

このような理由で、耳鼻科で処方される薬が必ずしもめまいや耳鳴りを解決しないことがあります。しかし病院の薬が悪い、効果がないという意味ではありません。専門医による精密な診断に加え、必要に応じた複合的な治療が重要だということです。本記事では、めまいや耳鳴りに対する鍼灸治療の有効性と、それを選択するための根拠、さらには病院との適切な連携方法について詳しく解説します。

1. めまい・耳鳴りの症状と原因

1.1 めまい・耳鳴りの種類と特徴

めまいや耳鳴りは、非常に多くの原因に起因する症状です。めまいには、回転性のめまいや、立ち上がった時に感じるふらつき、視界が揺れるような感覚が含まれます。耳鳴りは、耳の中に響く音の種類が人によって異なり、例えば、ピーピー、ザーザー、ワーという高音や低音、さらには鼓動のような音がすることもあります。

1.2 めまい・耳鳴りの原因

これらの症状が発生する原因は、内耳の異常、神経系の問題、血液の循環不良、あるいは精神的なストレスなど様々です。例えば、内耳の障害によるメニエール病や突発性難聴、神経系の異常が原因となることがあります。また、血圧の低下や過労、ストレスが影響することも少なくありません。

1.3 生活に与える影響

めまいや耳鳴りが長期間続くと、日常生活に深刻な影響を及ぼします。仕事や家事ができなくなったり、外出することが困難になったりすることが多いため、生活の質が著しく低下します。さらに、精神的な不安やストレスも高まり、症状が悪化することもあります。

2. 鍼灸治療の基本的な考え方

2.1 中医学の理論と鍼灸治療

鍼灸治療は中医学に基づく治療法であり、体内の「気」「血」「津液」のバランスを整えることを目的としています。中医学では、健康はこれらのバランスが適切に保たれているときに維持されると考えられています。鍼灸は、体の特定のツボを刺激することで、このバランスを整え、身体の自然治癒力を引き出す役割を果たします。

2.2 鍼灸の効果:気・血・津液のバランス

鍼灸治療は、気の流れを整えることによって、体全体のエネルギーを調整します。血液循環や気の流れを改善することで、めまいや耳鳴りの症状を軽減することができます。また、体の冷えやストレスなどの影響を緩和し、内耳や聴覚神経への血流を改善する効果も期待できます。

2.3 鍼灸治療の方法

鍼灸治療は、患者さんの症状に合わせて、身体の特定のツボを刺激することで、体のバランスを調整します。鍼の刺激を通じて、血行を促進し、気の滞りを解消することで、症状の緩和を図ります。

3. 鍼灸治療が有効である根拠

3.1 研究論文に基づく鍼灸の効果

近年では、鍼灸治療に関する多くの研究が行われ、その効果が証明されています。例えば、突発性難聴やメニエール病に対する鍼灸治療が、聴力回復や耳鳴りの症状改善に有効であることが示された臨床試験があります。これらの研究は、鍼灸治療が単なるプラセボ効果に留まらないことを裏付けています。

3.2 鍼灸の臨床試験と実績

実際の臨床試験では、鍼灸治療を受けた患者が、症状の改善を実感したという報告が多くあります。特に、慢性の耳鳴りやめまいに対しては、症状の軽減や改善が見られることが確認されています。以下に一例を挙げます。

・ Efficacy of Acupuncture as a Treatment for Tinnitus A Systematic Review

・ The effects of acupuncture on the inner ear originated tinnitus

・ Effects of acupuncture, cervical manipulation and NSAID therapy on dizziness and impaired head repositioning of suspected cervical origin: a pilot study

3.3 鍼灸治療が有効なケース

鍼灸治療は、血行不良や自律神経の乱れ、精神的なストレスが原因である場合に特に効果を発揮します。例えば、肝鬱(かんうつ)や血虚(けっきょ)など、中医学的な診断に基づいて治療を行うことが有効です。

4. 鍼灸治療を選ぶメリットと注意点

4.1 鍼灸治療のメリット

鍼灸治療の最大のメリットは、副作用が少ないことです。薬を使用しないため、薬による副作用や薬が増えることで起こる問題が発生しません。また、リラックス効果が得られるため、ストレスの軽減にも効果があります。

4.2 鍼灸治療に対する不安とその解消法

鍼灸治療に対して不安を感じる患者さんも多いかもしれません。しかし、鍼は非常に細く、痛みを感じることはほとんどありません。治療を受ける際には、信頼できる鍼灸師を選び、治療の流れや期待される効果についてしっかりと説明を受けることが大切です。

5. めまいや耳鳴りに対しての鍼灸治療のアプローチ

5.1 鍼灸治療の実際のアプローチ方法

鍼灸治療は、患者さんの症状に合わせた個別の治療が行われます。例えば、肝鬱や血虚が原因の場合は、太衝(たいしょう)や期門(きもん)、三陰交(さんいんこう)など、血行を促進し、気の流れを改善するツボが使われます。

5.2 有効なツボや治療方法

有効なツボとしては、太衝(たいしょう)や内関(ないかん)、百会(ひゃくえ)などが挙げられます。これらのツボを使用することで、めまいや耳鳴りの症状を軽減することができます。

5.3 治療の回数と期待できる効果

鍼灸治療は、数回の治療で効果が現れることもありますが、症状が慢性化している場合は、継続的な治療が必要です。通常、週に1~2回の頻度で治療を行い、数週間から数ヶ月の間に症状の改善が期待できます。

6. 適切な病院へのかかり方と鍼灸治療との併用

6.1 どのような症状が現れた場合に病院へ行くべきか

急激なめまいや耳鳴りが現れた場合、または症状が長期間続く場合は、病院での診察を受けることが重要です。特に、突発的な耳鳴りやめまいは、脳の血流障害や内耳の疾患が原因である可能性もあるため、早期に専門医に相談することをお勧めします。また脳や血管の器質的な問題であった場合には専門病院での治療を優先させた方がいい場合も多いです。例えば頸部の動脈乖離でもめまいが起こることがあります。まずは器質的な問題がないか?緊急性はないか?医師への確認が重要です。

6.2 医師との連携の重要性

鍼灸治療は補完的な治療法であり、病院での診断や治療と並行して行うことが重要です。鍼灸治療を受ける際には、必ず医師と連携し、治療の進行状況を共有するようにしましょう。

6.3 鍼灸治療と医療機関との協力

病院での治療と鍼灸治療を併用することで、より効果的に症状の改善が期待できます。病院での治療が進行していく中で、鍼灸治療は症状の緩和や身体全体のバランスを整える役割を果たします。

6.4 病院での検査と鍼灸治療のタイミング

病院での診断を受けた後、鍼灸治療を併用するタイミングについては、医師のアドバイスを受けることも重要です。症状が軽度であれば、早期に鍼灸治療を取り入れることで、症状の悪化を防ぐことができます。病院・鍼灸院が協力して治療に当たることが理想的です。

7. まとめ

めまいや耳鳴りに悩む方々にとって、鍼灸治療は有効な選択肢となり得ます。病院での診断と治療を受けつつ、鍼灸治療を併用することで、症状の軽減や改善が期待できます。鍼灸治療は自然治癒力を引き出し、身体全体のバランスを整えるため、より快適な生活を取り戻す手助けになります。症状に合った治療を受け、めまいや耳鳴りの改善を目指しましょう。

睡眠と鍼灸治療について

睡眠の質が悪いとは?

睡眠の質が悪いとは、下記のような状態を指します。これは単に睡眠時間が短いだけではなく、睡眠の深さや休息感などが関係します。

不完全な睡眠の例

入眠障害:寝つきが悪く、寝るまでに30分以上かかる。

中途覚醒:夜中に何度も目が覚める。

早朝覚醒:朝早く目覚めてしまい、再び寝れない。

非回復性睡眠:十分な時間寝たはずなのに、疲れが取れていないと感じる。

日中の眠気が激しい:夜間の睡眠不足のせいで、日中に注意力や集中力が低下する。

これらは、長期化すると不完全な睡眠状態、例えば不眠症や睡眠悪化症候群につながることもあります。またこれらの問題は自覚症状と実際の問題に差があるというデータもあります心配な場合まずは医師等に相談するとよいでしょう。検査の結果、不眠症の原因が器質的な問題(例えばパーキンソン病、甲状腺疾患、脳腫瘍など)であることもあります。逆に医学的な問題がないこともありますがそれでも症状が改善しないということもあります。その場合は鍼灸治療が有効なことも多いです。

睡眠の質の評価方法と診断基準

少し専門的ですが以下に睡眠の質と医学的評価方法の診断基準を挙げます。

1. 主観的な評価

ピッツバーグ睡眠品質指数(Pittsburgh Sleep Quality Index; PSQI)

過去1か月の睡眠の質を7つの領域(主観的な睡眠の質、睡眠時間、睡眠効率、睡眠障害、睡眠薬の使用、日中の機能障害など)で評価する指標。
スコアが5点以上で「睡眠の質が悪い」とされます。

2. 客観的な評価

ポリソムノグラフィー(PSG)

脳波、心拍数、筋電図、眼球運動などを測定し、睡眠の構造(浅い眠り、深い眠り、レム睡眠)を評価します。

アクチグラフ

リストバンド型の装置を装着して、睡眠と覚醒のリズムを長期間測定する方法。

3. 国際診断基準

DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)

不眠症の診断基準として以下を挙げています。①入眠、維持、早朝覚醒のいずれかの障害。②日中の機能障害(疲労感、集中力の低下、気分障害など)が生じている。③睡眠不足が少なくとも3か月以上、週3回以上続いている。

ICSD-3(国際睡眠障害分類第3版)

睡眠障害を詳細に分類(不眠症、過眠症、睡眠呼吸障害、サーカディアンリズム睡眠障害など)。

鍼灸治療が睡眠に与える影響

鍼灸治療は、古くからツボを刺激することで自然治癒力を高める手法です。睡眠に与える主要な影響は下記の通りです。

1. 自律神経の安定作用

鍼灸は自律神経(交感神経・副交感神経)の安定に有効です。自律神経が安定すると、睡眠リズムの正常化につながります。

2. リラックス効果

鍼灸によって、体の精神的なストレスが減少します。これが入眠を容易にし、睡眠の質を向上させる効果があります。

3. 血流改善とパターンの正常化

鍼灸は血流を改善し、睡眠時の身体回復活動を支援します。これにより、必要な深い睡眠が得られます。

4. ホルモンバランスの調整

ストレスホルモンの分泌を抑え、メラトニンやセロトニンの分泌を促進することで、自然な睡眠をサポートします。

鍼灸治療が不眠症に有効だとされた研究の例

国内でも海外でも研究はたくさんありますが鍼灸治療が不眠症に有効とされた研究の例を3つほど紹介します。

1,「不眠症に対する鍼治療の効果:系統的レビューとメタアナリシス」

概要: この研究では、ランダム化比較試験(RCT)を含む複数の研究を分析し、鍼治療が不眠症の改善に有効である可能性が示されました。

出典: Journal of Alternative and Complementary Medicine, 2009年

2,「不眠症患者に対する鍼治療の効果:ランダム化プラセボ対照試験」

概要: このRCTでは、鍼治療を受けた不眠症患者がプラセボ群と比較して睡眠の質が有意に改善されたことが報告されました。

出典: Sleep Medicine, 2013年

3,「慢性不眠症に対する鍼治療の効果:無作為化対照試験の系統的レビューとメタアナリシス」

概要: この研究では、複数の無作為化対照試験を分析し、鍼治療が慢性不眠症の症状を緩和する効果があることが示されました。

出典: BMC Complementary and Alternative Medicine, 2016年

東洋医学(中医学)での不眠症の捉え方は?

東洋医学(中医学)では、不眠症は身体のエネルギー(気)、血液、陰陽のバランスの乱れによって引き起こされる現象と考えられています。この視点から、不眠症は以下のようなパターンで説明され、治療方針が決定されます。

気血不足

特徴: 気や血が不足して心を養うことができず、不安感や多夢、疲労感が現れる。
原因: 過労や栄養不足など。
治療方針: 気と血を補い、心を安定させる。

肝火上炎(肝火の亢進)

特徴: 怒りっぽく、頭が熱っぽい、目が赤い、寝付きが悪い。
原因: 精神的なストレスや飲酒、不規則な生活習慣。
治療方針: 肝火を鎮め、心を落ち着かせる。

腎陰虚

特徴: 熱感やのぼせ、夜間の頻尿、浅い眠り。
原因: 加齢や慢性的な疲労、睡眠不足。
治療方針: 腎陰を補い、体内のバランスを整える。

脾胃の不調

特徴: 食後に寝付けない、胃の不快感や膨満感がある。
原因: 食べ過ぎや不規則な食事。
治療方針: 脾胃を調え、気血の流れを良くする。

心腎不交

特徴: 心と腎のエネルギーが調和せず、動悸や不安、頻繁な覚醒。
原因: 長期的なストレスや感情の乱れ。
治療方針: 心と腎を調和させる。

不眠症に効果的な主なツボ

神門(しんもん)

位置: 手首の内側、小指側の凹み(手根骨の下)。
効果: 心を落ち着かせ、入眠を助ける。

内関(ないかん)

位置: 前腕の内側、手首の横ジワから指3本分上。
効果: 精神の安定、ストレス緩和、消化器の不調を改善。

百会(ひゃくえ)

位置: 頭頂部、左右の耳を結んだ線と頭の中央を結んだ線の交点。
効果: 気を巡らせ、リラックス効果を高める。

安眠(あんみん)

位置: 耳の後ろの突起の下方、首のくぼみの少し後ろ。
効果: 心を静め、不安や不眠を改善する。

三陰交(さんいんこう)

位置: 内くるぶしから指4本分上の、すねの内側。
効果: 気血を補い、全身のバランスを整える。

足三里(あしさんり)

位置: 膝の外側、膝蓋骨の下端から指4本分下。
効果: 脾胃を強化し、全身のエネルギーを高める。

太谿(たいけい)

位置: 内くるぶしとアキレス腱の間のくぼみ。
効果: 腎を補い、陰陽のバランスを調える。

鍼灸治療でのアプローチ

東洋医学(中医学)では、不眠症の治療は個々の体質や症状に応じてツボを選び、鍼や灸を用いてバランスを調整します。また、患者の生活習慣や食事、ストレス管理にもアドバイスを行い、総合的な改善を目指します。不眠症でお悩みの方は、鍼灸を取り入れることで、自然で持続的な改善が期待できます。専門の鍼灸師に相談することで、適切な治療が受けられるでしょう。また睡眠薬が合わない、あまり薬を飲みたくない、薬以外の選択肢を試したい、これ以上薬を増やしたくない等の理由で鍼灸治療を希望する方もいらっしゃいます。その場合にも鍼灸治療が有効なアプローチとなる可能性が高いです。(どこの病院に相談してよいかわからない、などお困りの方はまずは田無北口鍼灸院に相談していただいても結構です。)

鍼灸治療の効果を測定するには

睡眠の質を数値化することは難しいように思えますが、現代の技術を活用することで効果をより明確に把握することができます。

1. スマートデバイスの活用

スマートウォッチやアプリを使って、鍼灸治療前後の睡眠パターンを記録することができます。特に睡眠時間(トータル、深い睡眠)、入眠時間や覚醒時間、夜間の覚醒回数のデータを知ることができますが診断のために利用するものではないため限界はあります。また鍼灸治療だけが睡眠に影響を与えるものではありません。あくまでも目安にとどめ異常を感じたら医師に相談するようにしましょう。

2. 主観的データとの組み合わせ

睡眠の質は主観的な感覚も重要です。治療後に感じる疲労感の軽減や、目覚めたときの爽快感も一緒に記録しましょう。

3. 専門医やデータの活用

必要に応じて、睡眠日誌や睡眠品質指数(PSQI)を活用することで、より詳細な分析が可能です。

鍼灸治療を取り入れるメリット

鍼灸治療は、睡眠改善の他にも多くの健康効果をもたらします。ストレス緩和や肩こり解消、血行促進など、全体的な体調改善に寄与します。自然な方法で体のバランスを整えるので、副作用もほとんどありません。薬が増えないこともメリットの一つと言えます。

最後に

睡眠の質が悪いと感じている方にとって、鍼灸治療は有効な選択肢です。科学的なデータや実際の体感をもとに、自分に合った改善方法を見つけてみましょう。当院では、睡眠改善を目的とした鍼灸治療も行っています。お気軽にご相談ください。健康的な睡眠と心地よい毎日をサポートするために、私たちは全力でお手伝いいたします。お気軽にお問い合わせください。*この記事を見て問い合わせをした方には以下のような小冊子(販売価格550円)も無料でプレゼントしています。ご希望の方は来所時にお申し出ください。

2025年3/1~3/25当ビルエレベーター停止、2月お休み日程のお知らせ

2025年3/1~3/25の8:30~19:00までの間、工事のためエレベーターが停止となります。(階段は使えます。)エレベーター停止期間中は以下のように対応します。

・付き添いが必要な方は、ご連絡くださればお迎えに上がります。

・ビル入り口、弊所立て看板のところ(↑写真)に杖を設置して使えるようにします。階段で必要な方は使ってください。使用後は元の場所にお戻し下さい。

・車椅子等で来所される方は夜間に対応させていただきます。

以上ご迷惑をおかけしますがよろしくお願い申し上げます。

 

2025年2月は11日(火曜日祝日)、23日(日曜日)、24日(月曜祝日)お休みいただきます。

第42回東方医学会「東方医学の精神文化と身体観」の感想 ~前向きな感情が芽生えた大会

去る2024年11月24日に行われた東方医学会学術大会に参加しました。私自身も学術発表の場をいただき発表しましたが他の先生方の発表も大変すばらしく非常に学びのある時間でした。大会は漢方医や鍼灸師だけでなく宗教家、日本舞踊の先生も参加され通常とは少し違った形でした。慈愛に満ちた素晴らしい学術大会であったと思います。以下私の感想を述べます。

近代化と伝統医学の問題

会頭講演でも「近代化に関する混乱とその問題」が挙げられていました。日本には明治維新の前まではなかった「概念」が入ってきたことで混乱が起きた事例が沢山あります。それが今も続いているものもあります。例えば、「個人」や「社会」という言葉は、明治時代以前は日本にありませんでした。(参考1)個人や社会という言葉を訳し、広めたのは福沢諭吉であると言われます。(諸説あり)これらの概念は江戸時代以前にはなかった、もしあったとしても現代人の我々が考えているものと違っていた可能性が高いことを意味します。日本人が人権や法の理解に弱いのはこれらの新しい概念を咀嚼できていないからではないかと指摘する法学者もいます。(参考2)

宗教に関しても同様です。私たちは宗教というとキリスト教や仏教等を思い浮かべますがその概念も当時の僧侶、島地黙雷が近代化に合わせて整理し生まれたものです。(参考3)医学分野でも1874年に制定された医制により、西洋医学に基づく医療体制が定着しました。この反動のような形で「東洋医学」という言葉が生まれたのですがそもそも言葉の定義や立ち位置が不明な上、西洋医学の反動という皮肉な宿命を背負っているのです。(参考4)この事が、現在漢方医学や鍼灸医学を学ぶ私たちの置かれている状況をややこしくしているといっても過言ではないでしょう。そもそも東洋医学という言葉は意味不明で、中国の人には意味が通じません。(参考5)ここに一つの矛盾があります。

それは東洋的な思想なのか?という疑問

また私は鍼灸を学んでいて「それは本当に東洋的な思想なのか?」と疑問に思うことが多々ありました。思想・哲学と現実的な医学の実践は乖離してしまうこともあるので仕方ない面もありますし、だからダメだと言いたいわけではなく腑に落ちないことが多かったのです。

例えば東洋哲学や禅の思想の根幹でもある「一如」や「不二」という概念は決して分けられるものではないことを意味します。(参考6)陰陽も完全に分かれることはありませんし太極図でもそれが表現されています。陰が極まれば陽になるだけです。しかしいまだに「西洋医学で解決できなかったものが東洋医学で解決できるのではないか?」、と考える方は一定数います。そのような二元論的発想や方法論に終始すること自体が東洋的でないと考えています。また中医学はさらに東洋的な発想ではない部分があると感じます。例えば中医学では弁証に基づいて患者の症状を把握し、陰陽、虚実、気血水、寒熱、表裏、五臓、六病位などの基本概念を適用して「証」を確定します。弁証論治は明確な答えを導きやすい強みがありガイドラインのようなもの、として考えればとても優れています。しかしこのシステマチックな思考法自体が東洋的な発想ではないように思うのです。学校教育で鍼灸師を養成し東洋医学概論を教えることも同様です。漢方製剤処方することも同様でしょう。効率的で優れた面が沢山ありますが、このような例は枚挙に暇がありません。

その上で、前向きな目標がもてた事

伝統医学をめぐる問題や矛盾はありますが、私はそれらを否定したいとは全く思いません。先人たちが築き上げてきた理論体系があるおかげで今、私たちは伝統医学に関わることが出来ています。そのことへ感謝する気持ちも強くなりました。もしもこのまま、伝統医学をめぐる状況が変わらず専門家や専門性が没落したとしても、社会から必要とされる鍼灸師でありたいと強く思うようになりました。もっと中医学を学んでみたい気持ちも強くなりました。今大会は自分にそのような前向きな感情が芽生えるきっかけになりました。

一方で矛盾や問題点は自覚すべきでしょう。それらを踏まえ現代において伝統医学に関わる我々は何をなすべきでしょうか?過去には鍼灸や漢方の科学化や共通言語化なども叫ばれましたが、私は「東洋医学という言葉をはじめとする、伝統医学の意味や定義の整理」が急務であると感じています。それらがないことには自分たちの持つ世界観や価値観をどのように共有していけばよいかも迷うことが多くなってしいます。中国や韓国のように国家主導で、それらが決まることは本邦においては難しいとも感じていますが個人、民間レベルでもできる事はたくさんあります。

そして多様化する価値観を持つ方が多い現代社会で、伝統医学の知見や手法を生かすには思想や手法を超えた超自我によるコミュニケーション・ケアの実践が必要ではないか?(参考7)と感じています。押しつけでなく、どのような世界観や価値観の人にも対応できるような「一如」であり「超自我」的な姿勢が治療者側に求められていると思います。その際に東洋的な思想や哲学は大いに役立つでしょう。以上のように様々なことを考えさせられ、自分の成長につながる学術大会でした。今後も日々の臨床に学習に励んでいきたいと感じます。日本東方医学会関係者のありがとうございました。心より感謝申し上げます。

参考

1,安部謹也「日本社会で生きるということ」朝日新聞社

2,川島武宜「日本人の法意識」岩波書店

3,山口輝臣 島地黙雷 「「政教分離」をもたらした僧侶」山川出版社

4,真柳誠「西洋医学と東洋医学」『しにか』8巻11号12-19、 83-85頁、1997年11月

5,東邦大学医療センター 大森病院 東洋医学科 三浦於菟 漢方医学と東洋医学はどう違うの -東洋医学の歴史-

6,鈴木大拙「東洋的な見方」角川ソフィア文庫

7,小西達也 「異宗教間ケア」の原理と方法論-「一/多」の人間観の観点から-

脳血管障害(脳梗塞・脳出血等)の後遺症と鍼灸治療

脳血管障害の後遺症には鍼灸治療が有効です。それらについてまとめていきます。

脳血管障害とは?

脳血管障害とは、脳の血管に関連する疾患全般を指す言葉であり、脳卒中(脳梗塞や脳出血など)もその一部です。これらの障害は、脳に酸素や栄養が届かなくなり、脳機能に大きな影響を与えるため、早期の予防と対応が極めて重要です。脳血管障害にはいくつかの主要なタイプがあります。それぞれの障害は、脳にどのように影響を与えるかによって異なります。

脳梗塞(のうこうそく):脳梗塞は、脳の血管が詰まり、血流が途絶えてしまう状態です。このため、その部分の脳組織に酸素や栄養が届かなくなり、脳細胞が死んでしまいます。主な原因は、動脈硬化や血栓(血の塊)が血管を塞ぐことが多いです。

脳出血(のうしゅっけつ):脳出血は、脳内の血管が破れて出血する状態です。出血によって脳組織が圧迫され、脳機能に障害をきたします。主な原因は高血圧で、特に脳の細い血管が破れることが多いです。糖尿病などの病気も大きなリスクになります。

くも膜下出血(くもまくかしゅっけつ):くも膜下出血は、脳の表面を覆っている「くも膜」という膜の下に出血が起こる状態です。通常、脳動脈瘤(血管の一部が膨らむ)が破裂することが原因です。このタイプの出血は、突然の激しい頭痛を伴い、重篤な結果を引き起こすことが多いです。

一過性脳虚血発作(TIA: Transient Ischemic Attack):TIAは、一時的に脳の血流が低下し、短時間だけ脳卒中に似た症状が現れる状態です。通常、症状は24時間以内に回復しますが、脳卒中の前兆として見られることが多く、早期の対応が重要です。

脳血管障害の症状

脳血管障害の症状は、障害される脳の部位や範囲によって異なりますが、一般的には以下のようなものがあります。

片側の手足や顔の麻痺やしびれ:片麻痺として片側の手足が動かしにくくなります。

言語障害:言葉が出にくくなったり、言葉を理解するのが難しくなる(失語症)。

視覚障害:視野の一部が見えなくなる、物が二重に見えるなど。

バランスの喪失や歩行困難:立ち上がれない、歩くのが難しくなる。

突然の激しい頭痛:特にくも膜下出血では、急な強い頭痛が特徴的です。

意識障害:意識が混濁したり、昏睡状態に陥ることがあります。

脳血管障害のリスク要因

高血圧の管理や糖尿病の治療、コレステロール値のコントロールが重要です。定期的な運動や健康的な食生活、禁煙も予防に役立ちます。発症した場合、早期の診断と治療が重要です。脳梗塞の場合、血栓を溶かす薬や、血流を回復させる手術が行われることがあります。リハビリテーションも、後遺症の回復に大きな役割を果たします。以下のリスク要因が脳血管障害の発症に大きく関与しています。

高血圧:血管にかかる圧力が強くなることで、血管が損傷しやすくなります。

糖尿病:血管を傷つけやすく、脳梗塞のリスクを高めます。

高コレステロール:血管内に脂肪がたまり、動脈硬化を引き起こします。

喫煙:血管にダメージを与え、動脈硬化や血栓形成のリスクを高めます。

不整脈や心臓病:特に心房細動は、血栓ができやすく、これが脳に到達すると脳梗塞を引き起こすことがあります。

その他:運動不足や肥満、過剰なアルコール摂取などの生活習慣もリスク要因となります。

発症後、保険でできるリハビリ期間について

脳卒中後のリハビリテーションは、発症から180日間(6ヶ月間)が保険適用で行える標準的な期間です。入院リハビリ、外来リハビリともに、この期間が保険適用の基準となります。6ヶ月以降は、介護保険を活用したリハビリが主になりますが、患者の状態に応じてリハビリを続けることができます。(医療保険や自費での鍼灸治療も加えることをご検討ください。)

鍼灸治療のメリット

鍼灸は、伝統的な東洋医学の一部であり、経絡やツボを刺激することで、体の自然な治癒力を高める効果が期待されています。脳血管障害による後遺症は、運動機能や感覚機能、言語機能などの幅広い領域に影響を与えるため、リハビリテーションと併用して鍼灸を行うことで、症状の改善やQOL(生活の質)の向上が期待されます。比較的安全な治療法とされていますが、医師や鍼灸師との連携が重要です。脳血管障害後の状態や他の治療との相互作用を考慮し、鍼灸治療が適しているかどうかを専門家と相談して進めることが大切です。

(1)筋緊張の緩和

脳卒中後の後遺症として、片麻痺や筋肉のこわばり(痙縮)がよく見られます。鍼灸は、筋肉の緊張を和らげ、リラックスさせる効果があります。特に、麻痺が残っている手足の硬直や痛みを軽減することができ、リハビリテーションでの動作の改善をサポートします。

(2)血流の改善

鍼を刺すことで、局所的に血流が改善され、患部の酸素や栄養の供給が促進されます。これは、脳血管障害によるダメージを受けた脳や神経の修復過程をサポートする効果が期待されます。また、血液循環が改善されることで、疲労感やだるさを軽減することができます。

3)痛みの軽減

脳血管障害後に、肩や関節に痛みを感じることがあります。鍼灸治療は、鎮痛作用があり、痛みを緩和する効果が期待されます。特に、片麻痺の側で感じる肩の痛みや腰痛などの改善に役立ちます。

(4)感覚機能の改善

脳血管障害後に感覚麻痺(しびれや感覚の鈍さ)が残る場合があります。鍼灸は、神経伝達を活性化させ、感覚の回復を助ける効果があるとされています。特に、触覚や痛覚の回復を促すことが期待されます。

(5)自律神経の調整

脳血管障害後、体内の自律神経のバランスが乱れることがあります。これにより、ストレス、睡眠障害、消化不良、血圧の変動などが発生することがあります。鍼灸は、自律神経のバランスを整え、全身の調和を促進する作用があります。これにより、心身の安定やリラックス効果が得られることが期待されます。

(6)精神的なリラクゼーション

鍼灸治療は、身体だけでなく、精神的なストレスや不安を軽減する効果もあります。脳血管障害後の不安感や抑うつ状態を改善するために、鍼灸が心のバランスを整えるサポートになることが報告されています。

(7)生活の質(QOL)の向上

脳血管障害後の後遺症によって日常生活が制限されると、患者の生活の質が低下することがあります。鍼灸治療によって、運動機能や痛み、疲労感が軽減されると、日常生活の活動がよりスムーズに行えるようになり、生活の質が向上することが期待できます。

治療的自己と鍼灸治療について

治療的自己とは?

モンタナ州大学の心理学教授である J.G. Watkins(John G. Watkins)が提唱した「治療的自己(Therapeutic Self)」の概念は、心理療法におけるセラピストの役割を深く探求したものです。(参考1)Watkinsは、特に 催眠療法 や 人格構造の治療的統合 に関心を持ち、セラピストが治療的な関係の中で自身をどのように効果的に活用できるかを重視しました。以下にWatkinsの治療的自己に関する主要な考え方を説明します。

1. 治療的自己の本質

Watkinsによる「治療的自己」は、セラピストが自分自身の人格、スキル、態度、そして存在を、意図的かつ治療的に患者との関係において活用する能力を指します。これは単なる技術やスキルの使用を超え、セラピスト自身が治療のプロセスの一部となることを意味します。

2. 治療的自己の発展

Watkinsは、治療的自己を発揮するためには以下の点が重要であると述べています。

自己認識: セラピストは、自分自身の感情、価値観、バイアス、人格特性を深く理解し、それが治療関係にどのように影響を与えるかを意識する必要があります。

感情のコントロール: セラピストは、クライアントとの関係において自分の感情を適切に管理し、感情移入しすぎないことが重要です。

クライアントとの共感的関係: セラピストは、クライアントの視点を理解し、その感情や体験に寄り添うことが治療の核心であると考えました。

3. 催眠療法との関連

Watkinsは、催眠療法の分野での先駆者であり、クライアントの無意識にアクセスするプロセスにおいて、セラピストの治療的自己が極めて重要であると考えました。具体的には、セラピストがクライアントに安心感を与え、信頼を築くことで、クライアントが無意識の深い部分に到達しやすくなると提唱しています。

4. 人格の統合と治療的自己

Watkinsは、解離性障害や多重人格の治療にも関与しており、治療的自己が人格の分裂を統合する際に重要な役割を果たすと考えました。セラピストは、クライアントの異なる側面や自己部分を受け入れることで、統合を促進する安全な環境を提供する必要があると述べています。

5. Watkinsの影響

Watkinsの治療的自己に関する考え方は、心理療法全般における「セラピスト自身の役割」の理解を深める上で非常に影響力がありました。彼の理論は、催眠療法や解離性障害の治療だけでなく、他の心理療法の分野でも応用可能な洞察を提供しています。

Watkinsのアプローチは、セラピストが単なる「治療技術の提供者」ではなく、治療的な関係性そのものを作り出す存在であることを強調しています。このような視点は、現代の心理療法やカウンセリングにおいても非常に重要な概念として受け継がれています。

鍼灸治療においてどのように役立つか?

「治療的自己(Therapeutic Self)」の概念は、鍼灸治療のような伝統的医療でも重要な役割を果たします。鍼灸治療は、身体的な症状の軽減に加えて、患者の心理的、感情的な側面に働きかけるホリスティックなアプローチを特徴とするため、治療者自身の態度や治療関係の質が治療効果に大きく影響します。以下に、Watkinsの「治療的自己」が鍼灸治療にどのように役立つかを具体的に説明します。

1. 治療者の「存在感」と治療環境の整備

鍼灸治療では、治療者と患者の間の信頼関係が重要です。Watkinsの「治療的自己」の概念では、治療者の態度や存在そのものが治療的な要素となることを強調しています。

鍼灸における応用: 鍼灸師が穏やかで安心感を与える態度を示し、患者にリラックスできる環境を提供することで、患者の体と心の両方が治療を受け入れやすくなります。たとえば、穏やかな声のトーンや丁寧な説明は、患者の不安を軽減します。

2. 患者の心理的反応を理解する能力

鍼灸治療中には、患者が身体的反応だけでなく、感情的な変化を経験することもあります。Watkinsの治療的自己は、治療者が患者の感情的な反応に共感し、それを治療プロセスに統合するスキルを養うことを奨励します。

具体例: 鍼灸施術中に患者が過去のトラウマやストレスを思い出す場合、鍼灸師は患者の感情を受け入れつつ、過度な干渉をせず、治療を進めるバランス感覚が求められます。

3. 触覚と接触を通じた治療的自己の発揮

鍼灸は身体への直接的な接触を伴う治療法であるため、治療者の手技や接触そのものが患者に治療的な影響を与えます。Watkinsの治療的自己の視点では、治療者の意図やエネルギーが患者に伝わると考えられます。

鍼灸師の技術と態度の融合: 鍼を挿入する際の慎重さや、ツボを押さえる手の優しさが、治療の効果を高めるだけでなく、患者のリラクゼーションや信頼感にも寄与します。

4. 患者の内的プロセスを促進する役割

Watkinsは、治療的自己を通じて患者が自分の内的なプロセスに向き合い、癒しを進められるようにサポートする重要性を述べています。鍼灸治療では、患者が自身の身体感覚やエネルギーの流れに気づき、自己治癒力を引き出すことが目的の一つです。

実践例: 鍼灸師が患者に、自分の身体感覚に意識を向けるよう優しく促すことで、治療効果を深めることができます。「このツボを刺激するとどんな感じがしますか?」といった問いかけを通じて、患者の内的な気づきを引き出すことが可能です。

5. 患者との信頼関係の構築

鍼灸治療の成功には、患者との信頼関係が欠かせません。Watkinsの治療的自己では、治療者が自己認識を持ち、偏見や判断を排除して患者に向き合うことが求められます。

鍼灸治療における応用: 患者の訴えをしっかりと聞き、その人特有の体験を尊重する姿勢は、患者に安心感を与えます。これにより、治療者と患者の間に強固な信頼関係が生まれ、治療効果が向上します。

6. 心理的効果の向上とプラセボ効果の活用

心身医学の視点に基づくと、鍼灸治療では患者の心理的状態が治療結果に影響を与えることがあります。Watkinsの治療的自己を活用することで、患者の心理的安心感や治療への信頼が高まり、プラセボ効果も含めた治療全体の効果が向上します。

応用例: 鍼灸師が治療の目的や効果をポジティブに説明することが、患者の治癒力を引き出す助けとなります。

まとめ

J.G. Watkinsの「治療的自己」の概念は、鍼灸治療において次のように役立ちます。

・ 治療環境の整備によるリラクゼーションの促進

・ 患者の心理的反応への対応による治療の深まり

・ 治療者の触覚や存在感を通じた治療効果の向上

・ 患者の自己治癒力を引き出すサポート

・ 信頼関係の構築を通じた治療効果の最大化

・ 鍼灸治療の効果を最大化するためには、Watkinsが強調したように、治療者自身の意識的な関与が重要です。これにより、患者は心身の癒しを深く体験することができます。

どのような疾患の方に特に有効か?

「治療的自己(Therapeutic Self)」の概念を鍼灸治療に活用する場合、治療者の存在そのものや態度、患者との関係性が治療効果を高める要因となります。このアプローチが特に有効だと考えられる患者の症状や状況には、以下のようなものがあります。

1. 心理的ストレスや精神的な不調が関与する症状

心理的な要因が症状の悪化や慢性化に影響している場合、治療者との信頼関係や共感が症状の改善を助けることがあります。

適応症:不安症や抑うつ状態、ストレス関連の頭痛や緊張型頭痛、不眠症、過敏性腸症候群(IBS)や胃腸の不調など

理由: 治療的自己の概念を通じて、患者に「安心感」や「共感されている」という感覚を与えることで、心理的負担を軽減し、自律神経系のバランスを整える効果が期待されます。

2. 慢性疼痛や原因不明の症状

慢性的な痛みや原因が特定されにくい症状を抱える患者では、身体的な治療だけでなく、心理的・感情的なサポートが重要です。

適応症:慢性腰痛や肩こり、繰り返す筋緊張や関節痛、線維筋痛症など

理由: 治療者の共感的な態度と寄り添う姿勢が、患者の痛みに対する認識を変え、症状の軽減につながります。また、鍼灸が神経系やホルモン系に与える効果と、治療者の心理的サポートが相乗効果を発揮します。

3. トラウマや心身症のある患者

過去のトラウマや心理的負担が身体症状として現れている患者では、治療者の態度や環境が回復の重要な鍵となります。

適応症:心因性の痛みや体調不良、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に関連した症状、解離性障害に伴う身体症状など

理由: 治療的自己を活用し、非侵襲的で安心感のある治療環境を提供することで、患者が心身の統合を取り戻す手助けができます。

4. 自律神経失調症や全身の不定愁訴

治療者との信頼関係や心理的な安心感が、自律神経の安定化に寄与し、症状の改善を助ける可能性があります。

適応症:疲労感や倦怠感を伴う疾患、めまいや耳鳴り症状、ホルモンバランスの乱れによる更年期症状など

理由: 治療的自己を通じて患者の状態に寄り添いながら、鍼灸の効果(経穴刺激による自律神経調整)を最大化します。

5. 妊娠中・産後のケア

妊娠中や産後の女性は身体的変化とともに心理的負担も大きいため、治療者の態度が大きな影響を及ぼします。

適応症:妊娠中のつわりや腰痛、産後の疲労やうつ症状、授乳トラブルに伴うストレスなど

理由: 妊産婦にとって、安心感のある治療環境と治療者との信頼関係が、心身の回復において非常に重要です。

6. 終末期医療や緩和ケア

治療的自己を用いることで、患者の苦痛を和らげ、安心感や穏やかな心境を提供できます。

適応症:癌の緩和ケア、終末期の疼痛管理や不安軽減など

理由: 鍼灸のリラクゼーション効果に加え、治療者の存在そのものが患者の不安を軽減し、精神的な支えとなる役割を果たします。

治療的自己が特に効果を発揮する理由

患者との信頼関係の構築: 患者が「自分のことを理解してくれている」と感じることで、治療の受容性が高まり、治癒力が促進されます。

心理的安心感の提供: 治療者の態度や雰囲気が患者に安心感を与え、ストレスを軽減します。これは、痛みや不安を感じている患者にとって特に重要です。

統合的アプローチ: 治療的自己を基盤に、身体と心を統合的にケアすることで、鍼灸の効果を最大限に活用できます。

 

参考1:心身医学的治療において治療的自己は重要な役割を果たす。

納得し治療を進めるためのアンケート

弊所では患者さんが施術者の方針に納得・理解し鍼灸治療を受けていただきたいのでヘルスコミュニケーション的な観点から作成したアンケートを実施しています。以下にPDFを公開します。1ページ目は鍼灸治療2回目もしくは3回目、2ページ目は鍼灸治療5回目くらいの慣れてきたタイミングで実施しているものです。

双方向の理解がある鍼灸院を目指しています。アンケート以外でも何かあれば口頭やLINEからお気軽にご質問、ご相談ください。

方針を決めていくためのシート