うつ・双極性障害・自律神経の不調・トラウマ(PTSD)・パニック障害等の治療選択肢に「鍼灸」を加える事をオススメします。

うつ・双極性障害・自律神経の不調・トラウマ(PTSD)・パニック障害等の治療選択肢に「鍼灸」を加える事をオススメします。

タイトルのような病気や症状で悩む方は多いです。投薬治療だけではあまり改善しなかったという声を聞くこともあります。しかし、最初にお伝えいておきたいのは精神疾患・トラウマや自律神経症状に対する治療は投薬治療が無駄・役に立たないということではなく「投薬治療だけでは限界があるため薬以外の選択肢も視野に入れるべきはないか?」ということです。通常の治療に加えて補助療法として鍼灸を選択してみるのもいいかもしれません。その理由等について以下詳しくお伝えします。また各病気はそれぞれ定義も発生機序も症状も違うものですがここでは「薬だけでは治りづらく、精神的ストレスを伴う事が多い」という共通の観点からまとめています。ご了承下さい。

投薬治療とその限界について

例えばうつ病ではセルトラリン、パロキセチン、フルボキサミンなど様々な薬が出されます。うつ病やうつ状態の時は、脳の神経細胞をつないでいる神経伝達物質の機能が低下し気分や意欲に関係するセロトニンやノルアドレナリンなどの機能が低下するため情報伝達に支障を来しているのではないか?と考えられ、SSRI(セロトニンを増やす薬)などの抗うつ薬がだされるのです。投薬治療は薬の効果を均一化できるため広く普及し、一定の効果を上げています。しかしながら「病院の薬だけではあまり改善が見られなかった。」という声をしばしば聞くこともまた事実です。

一例を挙げますと、本邦においては平成26年に衆議院で心療内科の薬が多剤処方傾向にありこれが適切かどうかの質問が出されました。(参考1)投薬治療中心の精神科医療が必ずしもうまくいっているわけではないという現状が浮かび上がってしまったのです。

またアメリカ医師会のレビューではすべてのうつ病・うつ状態に対して、必ずしも薬が効果的である訳でないことが示されました。これはうつ病の患者さんに、抗うつ薬を投与する群とプラセボを投与する群とにランダムに分けて比較した複数の臨床試験をまとめて解析した研究なのですが、重症のうつ病では抗うつ薬はプラセボよりも症状を改善させたものの、軽症のうつ病では明らかな差が観察できないことが明らかになったのです。(参考2)そもそもうつやトラウマによる自律神経症状などの治療を脳疾患モデルや薬物療法「だけ」で考えるべきではないのかもしれません。以下4つの根本的な事実を見逃している可能性がありますので参考書籍より抜粋して紹介します。(参考3 →は解説)

・私たちは互いを甚だしく害する可能性があるが、それを埋め合わせるに足るほどの、互いを癒す能力を持っている。

→人と人との関係性に目を向けることが大切なのではないか?

・言語は、自分の体験を伝えたり、知っていることを定義するのを助けたり、共通の意義を見つけたりすることで、私たちが自分自身を変える力を与えてくれる。

→言葉による回復や癒しを人間はそもそも持ち合わせているのではないか?

・私たちには、呼吸をしたり、動いたり、触れたりといった基本的な活動を通して、体と脳のいわゆる不随意機能の一部を含む、自分自身の生理的作用を調節する能力がある。

→人間のはそもそも自律神経の調整作用が備わっているのではないか?(自律神経の調整をしてくれる薬はそもそもない。)

・私たちは社会的状況を変え、大人も子供も安全に感じられ、成功できる環境を生み出すことが出来る。

→社会的な環境を整えることでよりよい人生を送ることが出来るのではないか?

なぜ薬だけではあまり改善しないことが多いのか?

繰り返しになりますが薬物療法が役に立たないという意味ではありません。しかし、薬だけであまり改善しないのには以下のような理由が考えられます。

・DMS-5などで以前は個人の苦悩として扱われたものも疾患とされ、ある時期から本来薬だけではあまり効果が出せない患者が増えてしまったため。(参考4)

・同じ病気でも発生までの順序も病態も違い個人差があるため。

・鬱や自律神経症状は原因がはっきり特定できるものは少なく、体質や社会的な因子(職場や家庭の人間関係のストレスなど)も大きくかかわるため。

・環境を整えないと再発することも多いため。など

薬以外の治療法

以下に自己コントロール感を高めたり自律神経を安定させたりする具体方法を挙げます。できることはいろいろと試す方が良いのですが少しずつ無理をせず行うことがコツです。そのためにもまずはセルフケアで行うような方法よりも専門セラピストとともに行うことが理想です。必ず医師等の専門家に相談することを忘れないようにしてください。自分で行うセルフケアは手軽である反面、安全管理や評価(効果があったのかなかったのか?の判断)ができないというデメリットもあります。

ヨガ:専門セラピストが指導してくれることもありますが、基本的にはセルフケアで行うことになります。呼吸を整え筋肉を緩める働きがあります。

鍼灸・マッサージ:鍼灸師やマッサージ師などの専門セラピストが行います。筋緊張改善や自律神経の安定作用が期待できます。

運動:専門セラピストが指導してくれることもありますが、基本的にはセルフケアで行うことになります。筋力の増強などの効果が見込まれます。

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing):専門セラピストが行います。眼球運動による脱感作と再処理法)は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対して、エビデンスのある心理療法です。

認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy):専門セラピストが行います。「現実の受け取り方」や「ものの見方」を認知といいますが、認知に働きかけて、こころのストレスを軽くしていく治療法を「認知療法・認知行動療法」といいます。

ニューロフィードバック:専門セラピストが行います。脳の神経活動を視覚と聴覚でフィードバックすることによって、望ましい脳の状態を作る心理療法です。

なぜ鍼灸が良いのか?

以下のような理由が挙げられます。薬物療法だけではあまり改善しないと感じている方はまずは緊張をとると良くなる事も多いです。補助療法として薬以外の選択肢をお考えの方は鍼灸を検討されることをオススメします。

・専門セラピストが介入を行い改善までのサポートをする。

・エビデンスも豊富で比較的安全。

・タッチセラピーであり体の緊張をとることができる。

・ホルモンバランス、自律神経の安定作用がある。

・実際にアメリカではPTSDの治療に鍼が使われる。(参考5)ほか

また精神疾患や自律神経症状だけではなく「痛みの問題」にも薬以外のアプローチが有効なことが多いです。分からないことがあれば何でもお気軽にご相談ください。

参考

1:精神科・心療内科・メンタルクリニックの質の維持と多剤処方についての診療報酬改定に関する質問主意書

2:Antidepressant Drug Effects and Depression Severity A Patient-Level Meta-analysis

3:身体はトラウマを記録する―脳・心・体のつながりと回復のための手法 第2章 心と脳の理解における大変革 適応化病気か?

4:うつの医療人類学

5:PTSDと鍼灸治療