睡眠と鍼灸治療について
睡眠の質が悪いとは?
睡眠の質が悪いとは、下記のような状態を指します。これは単に睡眠時間が短いだけではなく、睡眠の深さや休息感などが関係します。
不完全な睡眠の例
入眠障害:寝つきが悪く、寝るまでに30分以上かかる。
中途覚醒:夜中に何度も目が覚める。
早朝覚醒:朝早く目覚めてしまい、再び寝れない。
非回復性睡眠:十分な時間寝たはずなのに、疲れが取れていないと感じる。
日中の眠気が激しい:夜間の睡眠不足のせいで、日中に注意力や集中力が低下する。
これらは、長期化すると不完全な睡眠状態、例えば不眠症や睡眠悪化症候群につながることもあります。またこれらの問題は自覚症状と実際の問題に差があるというデータもあります。心配な場合まずは医師等に相談するとよいでしょう。検査の結果、不眠症の原因が器質的な問題(例えばパーキンソン病、甲状腺疾患、脳腫瘍など)であることもあります。逆に医学的な問題がないこともありますがそれでも症状が改善しないということもあります。その場合は鍼灸治療が有効なことも多いです。
睡眠の質の評価方法と診断基準
少し専門的ですが以下に睡眠の質と医学的評価方法の診断基準を挙げます。
1. 主観的な評価
ピッツバーグ睡眠品質指数(Pittsburgh Sleep Quality Index; PSQI)
過去1か月の睡眠の質を7つの領域(主観的な睡眠の質、睡眠時間、睡眠効率、睡眠障害、睡眠薬の使用、日中の機能障害など)で評価する指標。
スコアが5点以上で「睡眠の質が悪い」とされます。
2. 客観的な評価
ポリソムノグラフィー(PSG)
脳波、心拍数、筋電図、眼球運動などを測定し、睡眠の構造(浅い眠り、深い眠り、レム睡眠)を評価します。
アクチグラフ
リストバンド型の装置を装着して、睡眠と覚醒のリズムを長期間測定する方法。
3. 国際診断基準
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)
不眠症の診断基準として以下を挙げています。①入眠、維持、早朝覚醒のいずれかの障害。②日中の機能障害(疲労感、集中力の低下、気分障害など)が生じている。③睡眠不足が少なくとも3か月以上、週3回以上続いている。
ICSD-3(国際睡眠障害分類第3版)
睡眠障害を詳細に分類(不眠症、過眠症、睡眠呼吸障害、サーカディアンリズム睡眠障害など)。
鍼灸治療が睡眠に与える影響
鍼灸治療は、古くからツボを刺激することで自然治癒力を高める手法です。睡眠に与える主要な影響は下記の通りです。
1. 自律神経の安定作用
鍼灸は自律神経(交感神経・副交感神経)の安定に有効です。自律神経が安定すると、睡眠リズムの正常化につながります。
2. リラックス効果
鍼灸によって、体の精神的なストレスが減少します。これが入眠を容易にし、睡眠の質を向上させる効果があります。
3. 血流改善とパターンの正常化
鍼灸は血流を改善し、睡眠時の身体回復活動を支援します。これにより、必要な深い睡眠が得られます。
4. ホルモンバランスの調整
ストレスホルモンの分泌を抑え、メラトニンやセロトニンの分泌を促進することで、自然な睡眠をサポートします。
鍼灸治療が不眠症に有効だとされた研究の例
国内でも海外でも研究はたくさんありますが鍼灸治療が不眠症に有効とされた研究の例を3つほど紹介します。
1,「不眠症に対する鍼治療の効果:系統的レビューとメタアナリシス」
概要: この研究では、ランダム化比較試験(RCT)を含む複数の研究を分析し、鍼治療が不眠症の改善に有効である可能性が示されました。
出典: Journal of Alternative and Complementary Medicine, 2009年
2,「不眠症患者に対する鍼治療の効果:ランダム化プラセボ対照試験」
概要: このRCTでは、鍼治療を受けた不眠症患者がプラセボ群と比較して睡眠の質が有意に改善されたことが報告されました。
出典: Sleep Medicine, 2013年
3,「慢性不眠症に対する鍼治療の効果:無作為化対照試験の系統的レビューとメタアナリシス」
概要: この研究では、複数の無作為化対照試験を分析し、鍼治療が慢性不眠症の症状を緩和する効果があることが示されました。
出典: BMC Complementary and Alternative Medicine, 2016年
東洋医学(中医学)での不眠症の捉え方は?
東洋医学(中医学)では、不眠症は身体のエネルギー(気)、血液、陰陽のバランスの乱れによって引き起こされる現象と考えられています。この視点から、不眠症は以下のようなパターンで説明され、治療方針が決定されます。
気血不足
特徴: 気や血が不足して心を養うことができず、不安感や多夢、疲労感が現れる。
原因: 過労や栄養不足など。
治療方針: 気と血を補い、心を安定させる。
肝火上炎(肝火の亢進)
特徴: 怒りっぽく、頭が熱っぽい、目が赤い、寝付きが悪い。
原因: 精神的なストレスや飲酒、不規則な生活習慣。
治療方針: 肝火を鎮め、心を落ち着かせる。
腎陰虚
特徴: 熱感やのぼせ、夜間の頻尿、浅い眠り。
原因: 加齢や慢性的な疲労、睡眠不足。
治療方針: 腎陰を補い、体内のバランスを整える。
脾胃の不調
特徴: 食後に寝付けない、胃の不快感や膨満感がある。
原因: 食べ過ぎや不規則な食事。
治療方針: 脾胃を調え、気血の流れを良くする。
心腎不交
特徴: 心と腎のエネルギーが調和せず、動悸や不安、頻繁な覚醒。
原因: 長期的なストレスや感情の乱れ。
治療方針: 心と腎を調和させる。
不眠症に効果的な主なツボ
神門(しんもん)
位置: 手首の内側、小指側の凹み(手根骨の下)。
効果: 心を落ち着かせ、入眠を助ける。
内関(ないかん)
位置: 前腕の内側、手首の横ジワから指3本分上。
効果: 精神の安定、ストレス緩和、消化器の不調を改善。
百会(ひゃくえ)
位置: 頭頂部、左右の耳を結んだ線と頭の中央を結んだ線の交点。
効果: 気を巡らせ、リラックス効果を高める。
安眠(あんみん)
位置: 耳の後ろの突起の下方、首のくぼみの少し後ろ。
効果: 心を静め、不安や不眠を改善する。
三陰交(さんいんこう)
位置: 内くるぶしから指4本分上の、すねの内側。
効果: 気血を補い、全身のバランスを整える。
足三里(あしさんり)
位置: 膝の外側、膝蓋骨の下端から指4本分下。
効果: 脾胃を強化し、全身のエネルギーを高める。
太谿(たいけい)
位置: 内くるぶしとアキレス腱の間のくぼみ。
効果: 腎を補い、陰陽のバランスを調える。
鍼灸治療でのアプローチ
東洋医学(中医学)では、不眠症の治療は個々の体質や症状に応じてツボを選び、鍼や灸を用いてバランスを調整します。また、患者の生活習慣や食事、ストレス管理にもアドバイスを行い、総合的な改善を目指します。不眠症でお悩みの方は、鍼灸を取り入れることで、自然で持続的な改善が期待できます。専門の鍼灸師に相談することで、適切な治療が受けられるでしょう。また睡眠薬が合わない、あまり薬を飲みたくない、薬以外の選択肢を試したい、これ以上薬を増やしたくない等の理由で鍼灸治療を希望する方もいらっしゃいます。その場合にも鍼灸治療が有効なアプローチとなる可能性が高いです。(どこの病院に相談してよいかわからない、などお困りの方はまずは田無北口鍼灸院に相談していただいても結構です。)
鍼灸治療の効果を測定するには
睡眠の質を数値化することは難しいように思えますが、現代の技術を活用することで効果をより明確に把握することができます。
1. スマートデバイスの活用
スマートウォッチやアプリを使って、鍼灸治療前後の睡眠パターンを記録することができます。特に睡眠時間(トータル、深い睡眠)、入眠時間や覚醒時間、夜間の覚醒回数のデータを知ることができますが診断のために利用するものではないため限界はあります。また鍼灸治療だけが睡眠に影響を与えるものではありません。あくまでも目安にとどめ異常を感じたら医師に相談するようにしましょう。
2. 主観的データとの組み合わせ
睡眠の質は主観的な感覚も重要です。治療後に感じる疲労感の軽減や、目覚めたときの爽快感も一緒に記録しましょう。
3. 専門医やデータの活用
必要に応じて、睡眠日誌や睡眠品質指数(PSQI)を活用することで、より詳細な分析が可能です。
鍼灸治療を取り入れるメリット
鍼灸治療は、睡眠改善の他にも多くの健康効果をもたらします。ストレス緩和や肩こり解消、血行促進など、全体的な体調改善に寄与します。自然な方法で体のバランスを整えるので、副作用もほとんどありません。薬が増えないこともメリットの一つと言えます。
最後に
睡眠の質が悪いと感じている方にとって、鍼灸治療は有効な選択肢です。科学的なデータや実際の体感をもとに、自分に合った改善方法を見つけてみましょう。当院では、睡眠改善を目的とした鍼灸治療も行っています。お気軽にご相談ください。健康的な睡眠と心地よい毎日をサポートするために、私たちは全力でお手伝いいたします。お気軽にお問い合わせください。*この記事を見て問い合わせをした方には以下のような小冊子(販売価格550円)も無料でプレゼントしています。ご希望の方は来所時にお申し出ください。